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< Stray Sheep 5 >







――――――港から小さなボートで海岸沿いを行き、誰も近寄らない断崖絶壁に至るその場所に海賊たちの船はあった。



大型帆船を囲むようにして、中型、小型の帆船が群れをなす。その数、20近く。しかし、バンに言わせると中海に100以上置いて来たらしいというのだから、キースは驚いた。それでは流石に海軍も太刀打ち出来ないのは当然だった。





―――――ボートはそのうち銀と黒で彩られたもっとも美しい中型帆船に乗り付けられた。


ボウスプリットには海の女神が槍を掲げ、畳まれたマストの色は見るからに黒一色。舷側からは大砲口がいくつも覗き、何よりシャープなその船体のラインがスピード重視の帆船であることを物語っていた。

友の二匹を先にデッキに押しやると、続いてキースが船に乗り移る。メインデッキには乗り組み員たちの姿はほとんど見られず、逆に隣の大型船舶からガヤガヤと歌や音楽が鳴り響いては人々の歓喜の声が聞こえていた。


どうやら1つしかない大型船舶は海賊たちの協同の娯楽の場ということらしい。キースはバンに即されて船の中に続いた。







―――――ささやかなランプに照らされた狭い階段を下りて、比較的広い部屋に案内された。


どうやらここは客室らしい。大きなテーブルを囲んで、海賊にしては趣味の良いカウチ。本棚にはぎっしりと本が詰まり、壁には暖炉が備え付けられている。


キースが勧められるがままにカウチに腰を下ろすと、ヒューイとジークの二匹もそれに習って足元に鎮座した。


海賊の5人は、それぞれに珍客を観察しながら、独眼の海賊王を囲うように佇んでいる。キースがへらへらと笑いながら彼らを見上げるとその場にいる唯一の女性、カミーユが近づいた。それ以上近づくなと威嚇する獣を一瞥すると彼女は不機嫌そうに言い放つのだ。








「――――顔ぐらい見せたらどうなの?」



「これは、これは女性の前でとんだ失礼を・・・・」




キースは二匹の頭を撫でて落ち着かせるとカウチからすばやく立ち上がって、おもむろにマントを脱いだ。現れたキースの姿に皆一瞬、目を見開く。



砂漠民特有の黒くちりぢりの髪、小麦色の整った顔にはアクセントのように極々薄い灰色の瞳が光る。すっと通った鼻に薄い桃色の唇。ニヤリと笑った白い歯は、キースの自慢の一品だ。


だが、おそらく彼らが驚いたのはその容姿ではなく服装だろう。彼の衣装や装飾品は、北の故郷固有のものだからだ。故郷から出るときには軽装にして来たため、金目のものはほとんどないが、彼らかすれば珍しいものに相違ない。


首や足首、手首を覆うようなチョーカーの数々、白い大きな一枚の布が体を多い、体の左右や首に切り込まれた間から色褪せた黒い下着が見えていた。胸には珍しい斜めがけの皮の胸当てをつけ、腕と足には黒い布の上に同じく皮で出来た当てをしている。


しかし、何よりも目を見張ったのは、彼の腰に付けられた腕の長さほどの円の形をした武器だろう。黒い布が巻かれたその異様な形の武器に、キースは視線が集中していることを知っていた。


キースはニヤリと不敵に笑うとこの国の習慣通り一礼して見せた。そして、すばやくカミーユの間合いに入って手に接吻を施すのだ。





「――――我が名はキース・サラマン。賞金稼ぎにございます。これは旅の道連れヒューイとジーク。以後、お見知りおきを・・・・・お嬢様」


汚らわしいとでも言うように手を払ったカミーユは他所者の言葉を完全に無視していた。キースはあらら?と呟くと、やがて諦めたようにカウチに戻った。



賞金稼ぎと聞いたせいか、海賊たちの顔は一様に強張っている。






――――ダンッ!!!!




突然、対面に座っていたデュランの大きなナイフが机に突き刺さる。





―――――その場は一瞬で緊張に満たされた。







「―――――それで、賞金稼ぎがあんなところで何をしていた?」



低い声は、その場の空気をビリビリと振るわせる。その言葉は暗に“おまえなど信じていない”と告げていた。キースは陽気な笑いから人を食ったようなそれに表情を据え変えると目を細めた。







―――――この男はおもしろい。





キースは今、上機嫌だったのだ。






「・・・・・その言葉、そのままあんたらに返すね。海軍に追われてるあんたたちが何をしに、わざわざこんな辺鄙な港町に来たのかな。それもあんな場所にさ〜?・・・そんなことはこっちが聞きたいのさ、海賊さん」



殺気だった海賊たちに、大人しくしていた二匹も牙を剥く。だが、武器に手をやる海賊を制したのはその長だった。キースは声を上げて笑った。そして、突然笑いを納めると静に海賊のリーダーに流し目を送るのだ。




「――――そうだな〜、俺の勘だと答えは簡単。ザイアンは海賊の国だ。・・・政府と海賊が紙一重でもおかしくはない」








―――――訪れたのは沈黙だった。





キースは顔に笑みを貼り付けたまま海賊王を見つめ続けた。








「・・・・・なるほど、たいした想像力だな」



「でしょ?それなら、捕まらない海賊の理由もわかる。ザイアンは、物が集まり流れゆく場所。検問もそりゃしているらしいけど、全てが完璧にとは言えないだろう。闇市場のものなんか特にじゃないか?どんな物がどんな相手に流れていくか、どうせ目の前通るなら見ておきたい。だが、表立っては無理だろう?外交に支障が出るのは困るからな・・・―――だったら、海賊ってことにすればいい」







―――――部屋には独眼の海賊王の吸う葉巻の煙が昇る。







ゆらゆらと一直線に・・・・・。










「――――どの国がどんな状況か。積荷を見れば一目瞭然・・・そのうえ、通行料にプラスして海賊から船を守る安全料を巻きあげれば懐も潤う。仮に海賊が本当にやって来て、船を守れなかったとしても、悪くて安全料を返せば事は済む。情報も金も、時には積荷も全て、ザイアンのものになる。・・・・ザイアンの王は頭が良い」



キースはポーカーフェイスで葉巻を吹かす男を笑った。これはずっとキースが考えていたことだ。だが、いくら調べてもこの話を裏付ける証拠はどこにもない。この話には確証はないのだ。








――――しかし、確信はある。




なぜなら、自分がザイアンの王ならば、そうするからだ。ザイアンの隣、ゴラム帝国の武力は脅威だ。そして、西の農業国クジャも大国である。


ザイアンは大国に囲まれた、海に点在するちっぽけな島の集まりから出来ている。大国に比べてまだまだ国民は少ないし、島独特の文化という個性が強く統率は難しいものがある。


陸地が少ないため農作物は輸入に頼っており、海の災害も耐えず魚がなければ皆飢えるだろう。それに、もし他の国が連盟して侵攻すれば、いくら海があり無敵の海軍と誉れ高くとも、逃げ道は北の不毛の大地くらいのもの。それもいざ、海で生きて来た者が森や砂漠で暮らすとなれば、生活習慣の根本から変化を望まれる目に見えて困難な事態に陥るわけだ。






―――――だからザイアンにとって情報は命綱なのだ。









「――――想像力もそこまで行けば、笑えないな」



キースは目を細めた。4人の海賊たちはすでに臨戦態勢に入っている。ヒューイとジークも、カウチから降りて、主人を守るために立ちはだかっていた。しかし、キースは二匹の警戒を宥めると簡単に両手を挙げて見せた。






「俺はあんたらの味方じゃない。・・・けど、少なくとも敵でもない」




「――――賞金稼ぎが今更何を言うの?」




鞭をしならせてカミーユが笑う。キースはそんなカミーユに向けてウインクを送った。





「賞金稼ぎってのはね、お嬢さん。何でもやるんだ。―――そう、例えば帝国の動きを探るとか・・・ね?・・・・」



キースは葉巻を吸う男がただ冷ややかに目を向けていることを知りながら。話を持ちかけようと口を開いた。






「―――――信用して。な〜んてことは言わないが、俺はあんたらの首に興味はない・・・・だから、共同戦線ってのはどう?―――これでも、俺は役に立つよ?」




End.

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あきゅろす。
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