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< LOVE AND HATE 2 >





「そっちはどうだっ!!使えるか?」

「ダメだっ!!使えない!!」

「こっちもだっ!!全く反応しない!!」

「っちくしょう!どうなってるんだ!!」






――――センター内は人々の罵声と焦りの声が飛び交い、数十人の人間たちが忙しく行き来を繰り返しいる。その様子は当にアースガルドの緊急事態を如実に表していた。




ここに来てからさらに鼓膜を打ち震わす警告音に優は眉を顰めた。顔見知りを見付けて近付くと男は強張った表情で吐き捨てる。



「何が起こっているかなんてこっちが知りたいよ!夜勤中に突然警報が鳴り出して『AXIS』が勝手に動き始めたんだ!慌ててシステムにアクセスしようともうんともすんとも言わないっ!」




――――男は憤慨したように「肝心の司令の姿はないしウォルフもいないんだからこっちはパニックさっ!」と続けた。途端、背後から待ち人の声がする。








「――――何が起こった」


男はぱっと顔を輝かせるとすぐに司令官に駆け寄ったが、優はそのまま微動だにしなかった。








――――――ウォルフ。






その名が優の心を鷲掴みにしていた。



警報音を聞いたときに起こった訳のわからない胸騒ぎが再び優を襲う。彼にはこの異常事態が何か嫌なことの前触れのような気がしてならなかった。








「――――状況は?」


「そ、それが、『AXIS』が外部にメンバ情報を発信しているんですっ!!」


「――――止められないのか」


「今、イリスが『AXIS』本体に向いましたが、センタ内からのアクセスは全て拒絶されていて反応しませんっ!!」


「―――それで受信先は?」

「まだ特定出来ませんっ!!」

「くそっ、このうるさい警報音を止めろっ!!」

「それが『AXIS』が反応しないので…」

「だったら、配線を切れっ!!」

「しかし、それでは後々支障が…」

「いいから切れっ!!」







――――――漸く静けさを取り戻したセンタ内にもう声を張り上げる必要のない人々がほっと溜め息を吐く。しかし、それも束の間。彼等はすぐに自分達の役割に戻った。



『AXIS』はアースガルドを管理するマザー・コンピューターだ。『彼女』を使えば国家機密からエシュリオンに点在する重要施設の概要までこと細かに調べることが出きる。一個人の人生を丸ごと調べることも可能なほどだった。

しかし、人工頭脳を持った『彼女』は、本来アースガルド内からのアクセスしか受け入れない。また、それぞれの極秘情報は100を越えるパスワードによって厳重に保護され特定の人物にしか知ることは許されない。



――――公表はされていないが『AXIS』は国の最先端の技術を駆使している。機能性に優れ内容量は無限。国のどこの場所にもアクセス可能で、尚且つその安全性は国一だ。しかし、いくら人工頭脳を持つ『AXIS』であっても彼女の親であるアースガルドなしに勝手に動き出すことは有り得ない。


優はすぐ近くのプログラマーに事態を尋ねたが、30代後半の男は液晶画面を凝視したまま首を横に振った。




「――――コンピューターウイルスさ。全く良く出来た奴でね。最終手段として電源を切ろうともしてみたんだが何の反応もないお手上げだ」



「――――『AXIS』の試作品があったはずだ」


「『HERLD』か、アレは『AXIS』の機能を増やすために先週、予算削減で解体されちまったよ。『JANUS』はまだ製作工程だしな・・・バッドタイミングって奴さ」







――――画面ではその間も刻々とメンバの個人情報が外部に流出している。







「―――ウィルス対応は万善だったはずだろ?」


「ああ、俺だってそう思いたかったさ。だが、現実はこれだ。・・・ウイルス自体はたいしたもんじゃない。ただ、こいつは一度動き出したら全てを終えるまで止らないだろうよ。そうプログラムされているからな。こんなちっぽけなウイルスで『AXIS』がどうにかなるなんて、知りたくも無かったぜ」



接近戦を得意とする優や射撃のプロである劉偉とは違い、毎日のように『AXIS』に接していた内部勤務者の男はイリスのように彼女に対して愛着があるのだろう。男は哀しそうな声で呟いていた。




「――――おそらく内部感染させられたんだろう。そうでなければ『AXIS』が自分でこいつを排除するはずだ。どこのどいつかしらねえが、とんでもねえことをしやがる・・・」




しばらくして男の無骨な指がキーボード上で動きを止めた。





――――溜め息ともつかぬ静寂が場を支配する。







「――――とうとう、終っちまった」






液晶画面には大きく『GAME OVER』と表示されていた。





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エシュリオン:
統合国家名

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あきゅろす。
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