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バッドボーイの現実







世の中には。


―――たった一目見ただけで。




ああ、コイツにゃ敵わねぇっと。

そうわかる相手がいるもんだ。







――――"ダチ"って呼ばれる奴らはワリといて。

馬鹿しちゃ笑って世間様に喧嘩を売った。

粋がって喧嘩して勝つたびに俺に敵う奴なんていねぇと思いあがってみたもんさ。






―――――まぁ、どこにでもある話だろうがよ。






だが、そんな毎日を送ちゃいても。






『どいつもこいつもくだらねぇ』





―――――腹ん中はいつだって氷のように冷めきって。



喧嘩しようが何をしようが一時限りの楽しみでしかないことを馬鹿な俺にだってよくわかってた。






――――ああ、おもしろいもんなんてのはこの世に存在しねぇのか。





そう諦めかけてたんだ。







――――そいつらに出会うまではな。








――――ある日、バーでしこたま飲んだ"ダチ"がテーブル席を陣取った女連れに絡んでいった。



体格も顔つきも、ついでに発するオーラも見るからに"お門違い"。


なんなく一方的に伸されたのは、まぁ、当然の成り行きって奴だったんだろうよ。


ここ界隈じゃ結構名の売れた方だと思っちゃいたが、何、相手を見れば"大人"と"子供"の差ってのは歴然だった。




――――顔色一つ変えず問答無用の力づくで殴りつける相手が有名どころか"ヤバすぎる相手"だったってのは、まぁ、ずっと後に知ることだった。






骨の割れる音だろうが。


間接が外れる音だろうが。




――――何しろ、そいつはぴくりと眉一本動かさず、ただ無表情に圧倒的な力を見せつけて、かったるそうに煙草を吹かして、冷めた目して俺を見てた。





――――さっさと俺を置いて逃げる"ダチ"に。



まぁ、そうだろうぜっとある意味納得したってもんさ。





――――だが、それだけじゃパーティーナイトは終わらない。




地べたに血反吐吐いて倒れ伏す俺にもう一人の軽そうな男が笑いながら近づいてきて囁いた。






『――――ずいぶんお優しい"お友達"だな』





――――踏まれた手に唇を噛む俺をそいつはなんてことはないように笑って見てた。






『――――痛いか?はっ、よかったじゃねぇか。痛みを感じるってことはオマエはまだ生きてるってことさ』





――――そのあくどい笑みを今でも忘れられやしない。



確かに女が好きそうな面だったが、ガキのちゃちなそれじゃない。


"男の色気"ってやつなのか、この世界の裏側を知っているとでも言うようにただニヒルに笑って言ったんだ。





『―――――なぁ、"お友達の極意"ってのを教えてやる。作ればいいってもんじゃない。"選ぶ"もんなんだ。数より質ってな。もっともカモにするなら質より数だ。まぁ、オマエに言ってもわかんねぇか』





――――その言葉が俺の何かに火をつけたことをそいつはきっと気づいちゃいない。





『――――行くぞ、甲斐。ガキの遊びは終わりだ』





――――漠然と"だったら、選ばれたい"とそう思った。





だから、俺はその日を境に『甲斐』と呼ばれる男をひたすら追いかけたんだ。







―――――むろん、道のりは長かった。




誹謗中傷に悪乗り、シカト。

気分が悪けりゃ殴られて、最低な悪戯なんて星の数だ。

それでも歯食いしばって着いてった。






―――――後にも先にも俺が他人の"尻追いかけた"のはその一回こっきりだろうぜ。




ま、その甲斐あってか"その他大勢"から"悪い仲間"に格上げだ。




――――それこそ俺の努力の賜物って奴だろう。






――――『甲斐』と呼ばれる男の隣にはいつだって到底勝てそうにない『陣』と呼ばれる規格外の怪物がいた。


二人はいつも連れだって"言葉"こそないが、互いに"目"と"意識"で会話をしてる。


その何とも言えない阿吽の呼吸に割って入り込める奴なんていやしない。





――――楽しい策略を巡らして悪乗りの晩餐会を開催するのはいつだって狡猾なそいつの役目で。


その収集着かなくなりそうなドンチャン騒ぎを無言の圧力で統率するのがその隣の怪物の役目だ。





――――まぁ、結局、『破鍋に綴蓋』ってことなんだろうぜ。




あのド派手でタチの悪い存在感の横に立って見劣りしないってのは唯一、規格外の化け物ぐらいだって話なのさ。


なぁ、『類を友を呼ぶ』ってのは、そういうことだろう?






―――――善だ悪だ。



はっ、そんなあいまいな境界線なんかどうでもいいね。


世間が俺たちのやることを白い目で見ようが、がなり声あげていくら唾飛ばそうが。




―――――生憎俺たちには馬の耳に念仏さ。






『アイツらヤバくねぇ?しらっと俺らは違うってオーラ。バシバシ出てるぜ』

『マジ怖えよ。何考えてるかわかんねーしさ、関わりあいたくないよな』






―――――なぁ、悪い男だっていうなら、何、そりゃ光栄としか言いようがないのさ。



何しろ肩並べて歩きたいその片思いの相手は極悪非道のヒールズってわけだからな。





―――――ダークで最高のその響きは何より俺への賛辞ってわけだ。



血濡れだろうと死体の上だろうと、隣で笑うのが非道の極悪コンビなら。





何、どこにいようが。


どこまで行こうが。



――――構いはしない。



一緒に馬鹿騒ぎカマして地獄の底で笑うまでさ。





―――もっともここに集まる連中だって同じ穴の狢さ。


何しろ、その痛いほどの"現実"ってのをここにいる奴らは知ってるんだ。






"ダチ"だ。


"仲間"だ。


"友情"だ。





――――そんな上辺だけの青臭い呼び名なんざ、結局どうだっていいことをな。







――――"どこ"で遊ぶかじゃねぇんだ。


まして、"何"で遊ぶかでもねぇ。










――――――"誰"と遊ぶかってことさ。





それが全てなんだ。








『―――――よう、シズ』




―――――その現実を知っている者だけがここに集う。






だから、俺に言わせりゃ。


一等、悪い男ってのは。










――――悪い男を呼ぶ男ってことなのさ。





End.

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