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< リベンジ >







――――和田勉(わだつとむ)にはちょっと言ってみたい一言というものがある。

勉の親友、桑野瑞樹(くわのみずき)ははっきり言って適当を顔に張り付けているような男だった。







「――――ツン君。宿題見してー」




宿題を自分の力でやったことがなければ教科書を持って帰る姿を見たこともない。

時間は守ることの方が珍しいし貸し借りもだらしない。


しゃべり方もユルいが女の子との付き合い方もユルい。



だから、はっきり言って勉は桑野瑞樹を顔だけのダメ人間だと思っている。

いつだって"お尻拭き"が勉の役目に回ってきて『お別れ』を告げに行かされたうえ、本人の代わりにビンタをもらうことだって少なくはないのだ。






「――――ツン君最高!もう愛しちゃってる!」




二言目にはそんな軽い言葉でご機嫌窺いする親友をいつか『ギャン!』と言わせてやりたい。




―――――和田勉はそう思っていた。






■□■






「――――なんで瑞樹君じゃないのっ!!!」

「って、あなた誰よっ!!」

「あなたこそ、誰よっ!!私は瑞樹君の彼女よっ!」

「何言ってるのっ!彼女は私よっ!!」





――――いつだってコレなのだ。


勉は女の子二人に挟まれ、板挟みになりながら大きくため息を吐いた。







『―――デート断ってきて♪ね♪お願い、ツン君♪』







―――――たぶん頃合いというものだと思う。


勉はそっといがみ合う女の子たちの間から抜け出すとてくてくと体育館裏を後にした。




――――目指すは『ダメ人間』の巣、軽音楽部の部室なのである。



誰にだってちょっと言ってみたい言葉が一つや二つあるものだ。

だから、それを実行に移してみたって何ら悪いことではないはずだ。






――――勉はそう自分に言い訳すると「うん」と大きく頷いてひたすら『ダメ人間』の居場所を目指すのである。




■□■








「――――――どしたの、ツン君。部室来るなんて珍しいじゃん?」




コテンと首を傾げる色男がニッコリ嬉しそうに笑うから、一瞬決心がぐらついてしまったなんて勉だけの秘密である。


だって、ニッコリ笑うその色男の手はしっかり隣の女の子のセーラー服の中に納まっているのだ。



だから、勉はすっと息を大きく吸い込んで、思い切って言ってみるのである。







「――――――愛してるって言ったのにっ!俺だけだって言ったのにっ!瑞樹がそんな奴だったなんて・・・別れよう」








――――たぶん迫真の演技が出来たと思う。





毎晩、鏡に向かって練習した甲斐があったっと勉はピシャッと軽音楽部のドアを閉めるのである。

だって、『ダメ人間』も女の子もポカーンっと口を開けて、次の瞬間には口をパクパクさせていたから。





―――――パンッ!!




室内から頬を張るその音が聞こえてきたのを確認して勉は部室を後にする。




――――窓から見える空はとっても青くて晴れ晴れとしていた。




■□■






「―――――ツ、ツン君?」






――――最近の勉のご機嫌はウナギ登りである。

親友の女の子整理に駆り出されることもなければ、ユルい『ダメ人間』からポイポイ無理なお願いをされることもない。






『――――ツン君最高!もう愛しちゃってる!』




そんな言葉はもう軽くは言えないに決まっているのだ。

どう声をかけたらいいものか、背後で珍しくワタワタしている『ダメ人間』をさらっと無視して勉はご機嫌で窓の外を眺めていた。





――――とっても勇気を出したあの一言の効果は絶大である。



クラスメートの目が痛いという副作用はあるけれど、それでもイジメを受けるわけではないから安心なのだ。






「―――――ツン君?ねぇ、さらっとさっきから無視してない?してるよね?ツンく―――んっ!!」




一生懸命一人言を言う『ダメ人間』をもうしばらく放置しようと思う。


だって、恥を忍んで毎晩一生懸命練習した勉なのである。


もう少しこの"平和"を楽しんだってきっと許されるはずだ。



――――「うんうん」と頷く勉の横で『ダメ人間』が処置なしとがっくり肩を落としていた。



■□■






―――――連日、トボトボと後ろを歩く背後霊をちょっぴり可愛そうだと思えてきた勉は学校の校庭でパタっと足を止めてみた。



同じようにパタっと足を止めた背後霊は、猛全とダッシュで隣にやってくる。





「―――――ツン君?」



コテンと首を傾げる『ダメ人間』に勉はぽんっと手を打った。





――――なるほど勉は間違えていたのである。



和田勉の親友は『ダメ人間』なんかではなく『ダメ犬』だから、ちゃんと躾をしないと飼い主は大変なのだ。






――――「うんうん」と頷く勉の手がさらっと奪われると『ダメ犬』がぎゅっと勉の手を両手で包んでいた。



じっと見つめる『ダメ犬』にぎょっとした勉は思わず一歩足が後ろに下がってしまった。






「―――ツン君。俺っ・・・」


なぜなら、なんとなくじっと見つめるその瞳に嫌な予感がするからである。






「――――やっぱり、ツン君が一番好きだから。別れたくないっ!!」




大声とともにひしっと抱きしめられた勉は校庭中に響く生徒達の歓声に思わずがっくり首をうなだれた。





「―――――これで俺達学校公認の『恋人』だよね?ツン君♪」




――――ニンマリ笑う親友に『ハメられた』気がするのは気のせいなのか。





その日の帰り道、色男な彼氏に手を引かれて帰る和田勉の姿はあったという。



End.

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あきゅろす。
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