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―――――男は道の端に立ち、繁華街を行き交う人々の顔をさっと眺めた。
しかし、生憎商売になりそうな阿呆面の男の集団も雇いたいと思えるようなイカす女もいやしない。
「――――――――どいつもこいつも不景気ってわけだ」
――――――『金を稼ぐ』ということは世の中の大多数の人間にとってそう簡単なことじゃない。
その現実を受け入れることが出来たのは、煩わしい親元を離れ自らの金で生活し始めてからだった。
――――――頭は緩くて勉強嫌い、教師と親には知らぬ顔。
頭のおかしな同類達と、徒党を組んで大立ち回りをやらかしちゃ、親に泣かれて気づけば近づく奴もいやしない。
早々に大学なんざ諦めて、教師は卒業してくれと泣きついた。
だが、夢を描くのは一人前で、"夜の世界"を手に入れようと、馬鹿の一つ覚えのように大都会に繰り出して早7年。
――――――気づけば"夜を食う"はずが、"夜に食われ"て足抜けできやしなかった。
嫌な客に罵られようと『愛想笑い』で『うちの子どうよ?』っと囁いて、嫌がられながらも『働かないか?』と女を誘う。
夜通し繁華街で立ちつくし、光に群がる蛾のように人に群がるのが唯一の仕事。
――――――7年の長い月日が流れれば、泣く親すらいなくなる。
――――――25歳。
技術もなく学歴もなく、この世界から足抜けするにはとっくに汚れきっている。
女の扱いだけはうまくなり、何、どの客にどの女をつけるのか、ベストセレクトでコンサルティング。
酒を運ぶテクだけはどこぞのボーイに劣らぬスマートさ、多少の黒い人脈と汚れた金で都会の片隅に生きている。
むろん、人生の目標はとっくに消えた。
―――――いつから太陽を見ていないのか、その答えすら思い浮かびはしないのだ。
『―――――まだ人生はあんたの手の内さ。落とすなよ、人生を』
定期を落とした間抜けなサラリーマンにそんな臭いセリフ送ったのは"大人"ってものにまだ夢を見せて欲しかったからだろう。
負け犬の顔したスーツの男がそのまま自分に重なって"這い上がる"その姿を見たいと思った。
――――まだ人生は手の内だ。
それは男を通して自分に言っていたのかもしれない。
「――――――なぁ、43歳。世界の底から叫ぼうぜ、まだ俺たちの人生は終わっちゃいないってな」
――――男は人混みの中、夜空を見上げて笑っていた。
都心のネオンの明かりに負けて夜空に星は見えない。
―――――それでも星はそこにある。
End.
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