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< クラウンゲーム >
――――神崎卓はソファに横たわり白い紫煙を曇らせていた。
モデルルームのようなモダンな内装が施されたその部屋は、学校の寮とは思えぬ落ち着いた雰囲気を醸し出す。
―――室内にはジャズの囁かな調べが流れていた。
サァァァァ。
――――開いた窓からそよ風が入り、まっすぐ昇る紫煙を揺らす。
不意に紫煙の行き先を追っていた神崎卓はカメラを見つめてニヤリと笑った。
「―――――何、お嬢様方、俺と遊びたいって?」
――――密やかに流れるジャズにのって男の笑い声が響いていた。
――――ガチャ。
突然、ドアの鍵が開く音が部屋に響くと部屋主の目が一瞬窄められる。
合鍵を渡したことすらない男が勝手に部屋へと現れる頃には、ゆっくりとその体はソファから立ち上がった後だった。
――――窓際に背を預け大きな指輪の間に煙草を挟んだ卓は、ふーっと吐き出すその紫煙で突然の訪問者を歓迎した。
「―――――コーヘー君、それ犯罪よ?」
―――男は言葉に応えずゆっくりと間合いを詰めた。
「―――――乳臭いガキの次は金魚のフンで、このうえ誰と遊ぶ気だ?」
――――すっと肩を竦めた神崎卓はニヤッと笑った。
その不穏な光を宿す瞳に男の手が無意識に伸びる。
「――――Congratulations!20万ヒットってね」
しかし、ばっと窓枠を越えて外に飛び出した神崎卓の体はすっと消えていくのだ。
サァァァァ。
――――開いた窓から入る風にカーテンだけが揺れていた。
「―――――Thank you, Ladies!」
伸ばしかけの手を握った男の耳には他人宛てのメッセージが残っていた。
「―――――ちっ」
バキッッッ!!!
残された真田晃平は窓の外へと乗り出そうとするカメラを捕まえて腹立ち紛れに壁へと叩きつけた。
ひっしゃげたカメラが無残にも床へと落ちていく。
―――――部屋には遊び人の男が女を追いかけるが、女の方が一枚上手だったとそんなふざけた歌が流れていた。
「―――――はっ。どうやら無理矢理裸に引ん剥かれたいらしいな。いいさ、逃げろよ、色男。逃げれば逃げるほどオマエを捕まえる楽しみが増えるってもんだ」
――――ムーディなジャズの調べに交って男の不穏な呟きがかろうじてカメラに記録される。
「――――At the end of the game, The king and the pawn go back in the same box.ゲームの終わりには王も道化も同じオモチャ箱に戻るんだからな。そうだろ、色男?」
ガンッ!!
――――踏みつけられた無機物は今度こそその動きを止めた。
そよ風にゆれるカーテンの間から無表情な男の顔が覗いていたが、それを見たものは誰もいない。
End.
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