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< 棒飴とスケートボード >








ガ――――。


ガンッ!!ガ――――。






――――ほとんど人通りのない夜の裏路地には時折酔っ払いの喚き声が聞こえるぐらいでキャップ帽少年が走るスケートボードの音だけが響いていた。

ぽっかり電灯に照らされたその通りでスケボーの大技を練習していたヒロヤの背にのんびりした声がかかる。






「――――ヒロヤ」


ボードに乗りながら何気なしに振り返ったヒロヤには綺麗なお人形さんの笑顔が返される。






「―――――前」

だけど、ゆっくり指さされたその先にヒロヤが気づく頃にはもうすでに時遅く、哀れ、スケボー少年は見知らぬカメラと正面衝突してしまうのである。







―――――ガツンッ!







「―――――っ!」


地面に落ちてコンクリートを半分映すだけのカメラには同じように地面に叩き落とされたスケボー少年が映し出されているのだ。

むっくり上半身を起こしたヒロヤの脇にそろり近づいてきたムツキがちょこんと座て首を傾げていた。






「――――痛い?」



――――その手には変わらず棒飴が握られている。

どことなく楽しそうなムツキにヒロヤは唇を尖らした。






「――――別に」





――――痛くないわけがないのだ。

コンクリートで擦り向いたその肘からじんわり血が滲んでいるのである。






「――――涙目」


ほんわか笑ったムツキはちょんちょんとキャップ帽の脱げてしまったヒロヤの頬を突っついてみた。

途端、嫌そうにそっぽ向いたヒロヤにムツキは笑い声をあげるのである。





「――――ヒロヤ」

そっぽを向いてしまった男らしいその横顔は呼びかけに応じることはないけれど、ムツキはそっと声なき言葉を送ることにした。







――――好きだよ。





むっつりした顔でさっと起き上がると何より大事なボードを探しに行ってしまったその背にムツキはぼんやりととつぶやくのである。







「―――――ああ、食べちゃいたいな」


そして、ふっとカメラを振り向いてその口に指を当てるのだ。






「―――――内緒だよ?」



まだまだヒロヤとムツキの恋は動き出したばかり。



―――ふふふっと嬉しそうに笑うムツキが消えた後もコンクリートを半分映したままのアングルを直す者はいない。


もちろん、落ちたカメラを拾うものもいないのだ。





――――ただボードを滑らせる音だけがずっとカメラに録音されていた。



End.

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あきゅろす。
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