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――――辻隆也のマンションには当然の如く居候を決め込んで亭主関白を気取る王様がいる。


いかにも世慣れてますという容姿のわりに不器用でちょっと古風なところがある王様は、カッコ良くて優しい辻隆也の恋人なのである。




――――だけど、隆也の大好きな王様は、夕食時になるとせっせとキッチンで支度をする新妻を当然のように押し倒す獣な旦那様でもある。


毎日恒例とは言わないけれど、陸上部のエースに大きな大会が控えていないのを狙ったかのような旦那様のその行動はただ一言"あざとい"に尽きるのだ。


―――むろん、『人の気持ちを読みましょう』レベル1の新妻が気づいているかどうかは甚だ疑問ではある。







「―――――先輩」




―――――今日も当然のように押し倒された隆也の手からは、ゴロリと罪もないじゃがいもが転がった。






コトン。





床を転がって壁際に跳ね返ったじゃがいもは不思議そうに床に転がる恋人たちを見つめているのだ。








「―――――オマエ。何度言ったら覚える気だ。亨だ」

男前な言葉を吐くわりにはせっせとシャツを脱がしにかかっている王様に困った隆也は一生懸命呼びかけるしかないのである。







「――――亨先輩・・・・・あの亨さん・・」


――――いつもだったらあまり抵抗などしないで耳を赤く染める恋人が、今日は必死でめくれたシャツを戻そうすることに氷川亨はようやく気がついた。






「―――――あ?」

不機嫌そうにあげられた顔にはピキピキと、それはもう見るからにタコマークがしっかり刻まれているのだから、隆也にできることといったら黙って亨の背後を指し示すことだけなのである。








「・・・・・・・」







――――誰だって見知らぬビデオカメラが堂々と後ろから自分たちを撮影していたら、とっても恥ずかしいに決まっている。

亨の影にこっそり隠れた隆也は必死でシャツのボタンを留めにかかっていたのだけれど、カメラに映るのは見る見るうちに般若と化す王様の顔だけなのである。









「・・・・・・・」






―――無言で拳を握る王様にカメラがちょっぴり後退りしていたのはここだけの内緒なのだ。








「――――また来いとはいったがな」

不機嫌そうなその言葉と同時に長い腕が伸びて来たのなら、それほど広くはないキッチンに逃げ場などない。






「―――――誰が邪魔しろって?」

ドアップの王様はそれもうめっきり目がマジである。






――――バキッ!!





もちろん、あっと言う間に黒い画面となったカメラにはもう何も映し出されはしないのだ。

―――だけど、ほっと息を吐いた辻隆也を難癖ばかりの王様が見逃すはずもない。








「――――おい、誰がシャツ着ていいっていった?そんなに仕置きがしてほしいのか、オマエは」






―――残念ながら壊れたビデオカメラはその言葉を最後にプッツリ切れてしまったのだけれど、哀れ不機嫌な王様の機嫌が直るまでその恋人が離してもらえなかったのは想像に難くない。

辻隆也の家に当然のように居座る居候はとっても我儘な王様なのである。





End.


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