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< 偽りの恋人 >
――――――抱きこまれた体をゆっくりと暖かい腕から離す。
毎朝5時半に目を覚ます園田雪夜は今日も抱きこまれた腕から抜け出そうとゆっくりその身を引いた。
隣で眠っている人物は眠りが浅いため毎朝雪夜をベッドへ連れ戻そうとするが、今日に限って身じろぎすらしない。
―――――清々しい朝の空気を吸い込んで、そろっとベッドから抜け出した雪夜の表情はどことなく憂いを含んでいた。
少し前であったなら一直線にカーテンへ向かっただろう雪夜はただじっとその眠る寝顔を眺めるだけだ。
―――――綺麗な横顔は予想に反して目を覚ますことはなかった。
―――朝5時半に起きる意味は当の昔にその目的を変えた。
だから、今眠る男が起きないのであれば、雪夜は今日5時半に起きた意味はない。
―――その目的が何なのかまだ男には伝えていなかった。
――――小さく唇を噛んで、カーテンへと近づく。
久しぶりに頑張る親友でも見て男に振り回されっぱなしの自分を元気づけようと思っていた。
しかし、カーテンを掴んだ雪夜の耳にそっと呪文が聞こえれば、その体はあっさり攫われる運命だ。
「――――Buon giorno,amore mio」
バチバチバチッ!!
――――思わず掴んでいたカーテンがカーテンレールからずるずると外れていくのを見て雪夜は慌ててその手を離した。
文句を言おうと後ろを振り返れば、朝から優しいバードキスが落ちてくる。
「―――――愚かな愚かな俺のお姫様、目の浮気も立派な浮気。浮気者には罰をあげないと」
ウィンクを決めた男は当然のように雪夜をベッドへと押し倒すのだ。
――――沸き起こる暖かい感情を胸に隠して雪夜はきっと神城怜を睨みあげた。
しかし、その目は背中越しのカメラを見つけて驚愕に見開かれるのだ。
「――――神城っ―――んっ!!」
―――うろたえる雪夜を深い口づけで黙らせて怜はあくどく笑った。
「――――罰にさ。ハメ取りしよっか、雪夜?」
その囁きに雪夜は顔をさらに青ざめて最大の抵抗へと乗り出す。
腕を抑える男を雪夜はきっと睨んで叫び声をあげた。
「――――無神経!」
ギシッ!
バンッ!
――――投げられた枕をさっと避けた狡賢い魔法使いは楽しそうに笑ってお姫様を追いかけ回す。
「――――――いいね。抵抗されると俄然燃える」
ニヤニヤ笑ってそう告げる魔法使いに園田雪夜は喚き散らしたくなった。
――――早朝の5時半、園部雪夜のベッドはやはり今日も戦場だった。
End.
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