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< シアワセ >
「―――――おはよう」
雪夜は見慣れた背中に声をかけた。
親友はおうとぶっきら棒に返事を返して、手を挙げる。小走りで彼に追いつくと隣に並んだ。
――――毎朝、今日も頑張ったねっと言いたくなる。
けれど、まさか隣の親友が毎朝、彼のジョギング姿を見ることを、もう4年間も習慣にしているなど、本人は知らない。
――――だから、これは雪夜だけの秘密なのだ。
「今週の日曜日、練習試合なんだって?」
ニコリと笑って問うと、藤井は目を輝かせて頷いた。
遠足前の少年のような彼を、可愛いと思わずにはいられない。
「・・・そーなんだよ。相手、滝本高校なんだぜ。・・・・絶対負けらんねぇよな」
「県下ナンバー1には楽勝だろう?」
「・・・・・何と言っても、うちには藤井康介ってゆう兵がいるからね・・・」
からかう雪夜に、藤井はまーなっと照れたように頭を掻いた。
思わず噴出する雪夜にからかわれたと知った藤井がおいっと怒ったように突っ込む。
途端、はじけたように雪夜は笑い出した。
すると、藤井が唇を尖らせて呟いた。
「―――っちぇ、心配して損した」
「何が?」
「・・・・・おまえ、最近・・・・・・・笑わなくなったからよ・・・」
ぼそりと言う呟きに、雪夜は故意にきょとんとした顔で、「そうかな?」っと呟いた。
「・・・・ま、いーけどよ。・・・俺も伊達におまえの親友やってねぇぞってとこかな?」
自称親友はそう言うと、予鈴のチャイムの音に慌てて雪夜を促した。
―――――内心、ドキドキしていた。
藤井康介という男は鈍感で下心や思惑などと程遠いようでありながら、時々天性の勘の良さを見せ付ける。
こんな風に落ち込んでいる時をまるで見計らうかのような彼の言動は、雪夜の気持ちをますます助長させる。
雪夜は、小さく微笑した。
――――もちろん、嬉しかったからである。
「――――応援、来んだろ?」
「当然でしょ?」
伺うように互い軽く睨み合うと、二人ははじけたように笑いだした。
二人を包む温かい空気。
互いの心がわかるような錯覚。
―――――幸せとは、こんな感じだろうか。
雪夜が本当に心から笑い合える相手は、藤井康介以外には存在しない。
冗談を言うのも、拗ねてみせるのも、彼しかいない。
雪夜にとって彼は自分自身の“心”を映す鏡のような存在だった。
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