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< 言葉はいらない 6 >
夜の静寂を纏って優の暗い欲望が目を醒ます。
―――濡れた黒曜石の双眸が妖しく光って翡翠の瞳を捕まえた。
――――赤く熟れた唇に長い指を誘い入れると、目の前の白い喉が震えていた。
生暖かい舌で指の腹を舐め上げる。
ねっとりと絡まるそれに翡翠の瞳が雄の輝きに支配されていく。
―――その様に優は衝動的に歯を立てた。
「――――っ」
顔を歪めた麗人に満足感が齎される。
――――けれど、まだ足りない。
この暗い欲望を満たすには全然足りはしないのだ。
離れた綺麗な指が名残惜しげに透明な糸を垂らす。
――――優は妖艶に微笑んだ。
そして、目の前の麗人に濡れた声で囁いた。
「――――大人の時間だ」
翡翠の瞳は微笑んで形の良い唇から返事が返される。
「――――――ええ」
触れるだけの口付けを繰り返し互いの存在を確認する。
会いたくて。
触れたくて。
声が聞きたくて。
一緒にいたくて。
寂しくて。
泣きそうになって。
―――弱音を言えない関係ではないけれど弱音を言うよりは抱き合いたい。
「――――おかえりなさい、優」
出迎えの言葉に優は笑った。
―――言葉などいらない。
ただその心がほしい。
――――ただおまえの心が欲しい。
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