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< 言葉はいらない 3 >
――――――麗人の薄い唇から何度目かの溜め息が漏れる。
ここ2ヶ月、彼はほとんど自分の部屋で眠らず、このオフィスで過ごしていた。
好きな音楽鑑賞もチェスもせず親友達にすらほとんど会わずに仕事をしていた。
流石のウォルフも少々の疲労を感じずにはいられない。
だが、下手に時間が余るよりは忙しい方が彼には好ましかった。
――――だから、この現状も諸手を上げて歓迎するのだ。
時間があれば考えずにはいられない。
時間があれば気付かずにはいられない。
―――ウォルフは読み終った資料をデスクの上へ投げだした。
冷めたコーヒーに口付けると、苦味のある独特の味が口いっぱいに広がる。
――――そして、ここにいない人を思って溜め息をついた。
今あの人は何をしているのか。
そして何を考えているのか。
――――少しでも私のことを思い出してくれているのだろうか?
ウォルフの心が切なさに悲鳴をあげる。
『―――愛している』
その言葉だけでは言い尽くせない思いがある。
『―――抱きしめる』
それだけでは伝えられない思いがある。
―――けれど、その相手すら今はいない。
「――――――優」
不安と焦燥。
そして飢餓と孤独。
―――早く明日が来ればいい。
ウォルフはそう願った。
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