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< 言葉はいらない 2 >
「―――――ウォルフ、この件はおまえに任せる。他の件もあるだろうが、早急に取りかかってくれ。期限は3日だ」
「―――――わかりました」
――――広い司令室に酷薄な男の声と穏やかなテノールが響く。
四十歳前後と思われる男がアームチェアをギシッと鳴らして、蛇のような目で銀髪の青年を見上げていた。
「――――それで人員削減の件はどうなった?」
――――数枚の書類がデスクの上に差し出される。
「これを。過去3年間の任務成績から処分リストを作成しました」
受け取った男は眉一つ動かさずにざっと目を通す。
―――全く食えぬ男だ。
男は目の前の青年に一瞬意識を移した。
デスクの前に静かに佇み、自分の指示を待つ青年には一寸の隙も見当たらない。
「――――上位5名だ。明日までに処分しろ」
――――再び投げ出された書類を青年の白い指が攫っていった。
「――――実行班はどうしますか?」
――――常に相手の先を読み、着実に有益である道を選ぶ。
冷静沈着で必要とあればどんな残酷・非道な人間にも成り代わる。
―――青年に会って男はすぐに同類の匂いを嗅ぎ分けた。
そのときすでに青年は【成熟】していたのだ。
男は思った。
―――恐ろしい奴がいるものだと。
「――――最近、不審な行動をとる者や任務に反抗的な者は?」
「2名ほど」
「――――その2人にやらせろ。私はこれから重役会議がある。北条補佐も外出任務だ。ここはおまえに任せる」
その後、複数の任務詳細を話しあい、ようやく一段落して退出していく青年を男は不意に呼びとめた。
「―――――何でしょう、司令?」
――――男はこの忠実な青年を信用していなかった。
そして、青年もまた男を信用していないはずだ。
だが、それは多数あるうちの一面でしかなくある種の【同族嫌悪】に近い。
互いに互いの考えが判ってしまう。
そして、それは嫌悪とはまた別の親愛を生むこともある。
「――――優は明日帰還する」
「お気遣いありがとうございます。お返しにと言っては何ですが、私から藤堂博士に司令が寂しがっておられるとお伝えしておきましょう」
―――男は青年の皮肉に口の端を持ち上げ、そして素っ気無く退出を命じた。
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