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< 片思い >




――――それでも、心のない人形にも魂が宿ることもある。



雪夜は小さく響く足音に、はっとして窓の傍に寄った。小さな影は段々と近づいて大きくなる。


真っ暗な部屋の中、雪夜は食い入るように窓の外を見つめた。

密かな街灯に照らし出された精悍な顔は真剣で、それでいて楽しそうだ。


流れる汗をタオルで拭きながら、彼の親友が走りすぎていった。




「――――がんばれ」

雪夜は小さく呟いて、消えてゆく後姿を見つめ続けた。


窓に張り付いていた手をそっと剥がして、思わず口走った言葉に笑ってしまう。




――――――そう、園田雪夜は、片思いをしているのである。



お相手は、毎朝、彼の家の前を走り去るサッカー馬鹿。ひたむきで正直で皆を照らす太陽のようなヒーローだ。







―――始めは、大嫌いだった。



当たり前のようにクラスの中心にいて、当たり前のように笑う彼に苛々した。

そうとも気づかず毎日話しかけてくる鈍感な男を、何度殴ろうと思ったか知れない。





―――けれど、ある朝帰り。


その“当たり前”が彼の努力で成り立っていることを知った。

サッカー部の期待の星は、皆に内緒で毎朝欠かさずサッカー練習をしているのである。

目を輝かせて、汗を撒き散らし、必死にボールを追う。その顔は見たこともなく真剣で、雪夜の心を打った。

誰かに見られることも見られないことも彼にもどうでも良いのだろう。褒められようが囃し立てられようが、好きなことをする。




ただ、ひたむきに淡々と・・・。



――――――大嫌いは、いつしか大好きに変わっていた。




困ったような笑う顔。

ひたむきにボールを追う姿。

照れたように頭を掻く仕草。

嘘のつけないその性格。

聳え立つ自尊心の裏、“孤独”に怯える自分がいる。
孤独であろうとなかろうと強く信念を突き通す彼がいる。




―――彼の周りはいつだって、陽だまりの匂いがして、凍てつく心は温かさに溶かされる。





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