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< The sky worlds >
まっすぐに伸びたバーの上、ふわりと吹くやさしい風をとても愛していた。それは背中を押す追い風が、隆也を素敵な空の世界へ導くからである。
足を跳ね上げ、リズムを取る。
ゆるく、ゆるく。
そして、はやく、はやく駆け上がる。
空は近づいて、太陽が微笑む。
遠心力と助走スピードで、日に焼けたスレンダーな体はふわりと宙に浮いた。全ての時が止まる。
―――この瞬間は隆也にとって至福の時である。
目に映るのは一面の青空で、ゆっくりと次第に自分の足先が見えてくる。そうして、ようやく自分が境界というバーの上を飛んでいたことを思い出す。その後はあっという間に羽を無くした体が沈んでゆく。
「―――――」
それでも、しばらくあの羽を持った瞬間を忘れられずに、隆也はしばらく静かに横たわる。心地よい風に拭かれながら目を瞑ると、蘇る瞬間が何度も繰り返された。
『――――おまえが陸上馬鹿なのは今更だよ』
あまりにも楽しいので、いつも幼馴染の言葉を素直に認めてしまうのである。
「―――流石だな、辻。練習で95も軽々か・・・」
何時の間にやら現れた顧問に話しかけられ、居心地の良いマットから隆也はゆっくりと体を起こした。失礼のないように小さく頭を下げる彼の先には、高々と掲げられた195cmのバーが夕日に照らされ、光り輝いている。
「フォームも定着しているから、調整さえうまくいけば関東も楽だな」
神出鬼没の部活顧問は熟年の体育教師で、『重さん』というニックネームを頂いている男である。走り高跳びは専門外にしても、陸上部員の一人なら世話になることは多い。
「・・・・今日も“居残り”か?」
「練習しすぎて変な癖をつけるなよ。じゃ、ライトは他の奴に頼んでおくから、片付けはいつもの通りな」
本当ならば陸上部の部長が持つべき鍵束が、ぽいっと投げられてマットの上に落ちた。隆也がそれを拾うころには、せっかちな『重さん』はさっさと体育教官室へ向かっていた。
――――彼は無口で無表情、その上無愛想な隆也を気にしない奇特な人物でもあるのだ。
ふっと辺りを見回すと、いつものごとく本練を終えた陸上部員たちがダウンを行っていた。
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