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< 嫌な男 >
「―――なんだ、ユキ、最近荒れてるな」
雪夜は空になったカクテルグラスをカウンターに叩きつけて、「うるさい」とクラブ仲間に噛み付いた。
馴染みの仲間たちは苦笑して、コワイコワイっと逃げて行く。
雪夜は不機嫌に鼻を鳴らした。
―――限界だろうか。
優等生の仮面に疲れて、ちょっとした気晴らしに初めた夜遊び。週2と決めていたはずが、今やここの顔同然である。
―――それもこれも、あの無邪気な子供が原因だ。
「――――マスター、おかわり」
悪の元凶を思い出して雪夜は不機嫌に言い放つ。
―――すると、後から薄ら笑いが聞こえくるのだ。
瞬間、雪夜は嫌な悪寒に襲われた。
―――案の上、振り返った先にいたのは両手に花を咲かせた色男、神城怜(かみしろれい)だ。
しなやかな筋肉の覗くドきつい網柄のノースリーブに、太ももにピッタリと張り付く黒い皮のパンツ。
ことさら派手な雹柄の毛皮のジャケットを着こなして、金色のゆるやかな長髪を揺らす姿はどこから見ても危険な遊び人だ。
指にも耳にも、そして首にも金属が競うように取り付けられてまさに金のなる木。
金持ちもここまでくれば、立派な嫌味だ。
――――まさかこの男が未成年で、それも都内屈指の進学校に通う天才児とは誰も思うまい。
「――――最悪だな」
思わず呟いた雪夜の一言に、神城は効果なしと方眉を上げる。
毎回相手を変えて現れる色男は、紹介してとせがむ女たちを無視して、雪夜と空のグラスを見つめて、おもしろそうに目を細めた。
「―――抱きたい男No1が自棄酒とは、解せないねぇ・・・・・」
「たいていの男ならその体とテクニックで骨抜きにしちゃうだろうに・・・・・運の悪いのに当たっちゃったってわけ?」
「なんなら俺が一晩かけてやさし〜く、慰めてあげちゃうよ?」
ブーイングする女達を抱き寄せてキスする男を雪夜は冷たく一瞥した。
神城がどんな色男だろうと、どんなに金持ちだろうと彼と寝る気は二度とない。
―――例え、1人の寂しさに耐えかねても、他の相手を選ぶだろう。
「―――謹んで遠慮させていただくね。本物のスケコマシと遊ぶほど僕は余裕じゃない」
雪夜は出てきた新しいグラスを口に運ぶと、手であっちを行けと合図した。
ニヤニヤと笑った神城が、女たちを促して歩き去る。
――――雪夜は互いの秘密を共有する相手を、しばらく睨みつけていた。
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