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< 恋ふる盛り >











――――いたぶり甲斐のない相手はつまらない。



すぐに逃げ出すチキンには興醒めどころか溜息が出るのさ。



――――ゆっくりとブロックを積み上げて徐々に身ぐるみ剥がす楽しみもなければ、ぐっと腹の底からわき上がる愉悦という情緒すらない。


だから、甘く笑って嬲り殺すのはいつだって骨があって多少歯ごたえがあるぐらいが調度良い。





――――じわりじわりと時間をかけて甘い猛毒で獲物を犯し、毒が回って鈍くなったその体を優しい言葉で追い詰める。




後は奈落の底に落ちるように。





ねぇ、そっと優しく。







――――蹴落としてやる。








バリッ。




バリッ。







心の砕けるその音は。



――――最高のエクスタシーなんだからさ。









――――だが、残念なことに世界は常に回ってる。


花は散り、物は壊れ、人は死ぬ。


永遠などこの世には存在しないことを笑い狐は知っていた。





―――だから、'楽しいオモチャ'はいつだって壊れゆく。








「――――桜花時は過ぎねど見る人の恋ふる盛りと今し散るらむ」







―――神崎卓は廊下での出来事を思い出すと目を細めてニヤリと笑った。





――――楽しい盛りを過ぎたなら後に残るのは面白味もないただの惰性だ。



だから、愛でてくれる人がいるうちにと桜が散っていくのは、ある意味正解なのかもしれない。




――――後ろ髪惹かれるように人の心に美しい余韻を残すことができるのだから。






「――――All is well that ends well. 終わりよければ全て良しってね」





当の黒いカラスが多くの花見客を相手にどんな気持ちだったのか。







――――そんなことはどうだっていい。






―――笑い狐は遊べない"オモチャ"に興味はないのだ。



当然、これからは防御一徹になる黒いカラスに遊ぶ余力はないだろう。




――――結果の見えた戦いは虚しいマスターベーションと変わらない。



誰だって一人虚しくマス掻くよりは新しいお相手見つけて一発楽しいセックスといきたいもんさ。







いずれにせよ。







――――残り桜は散った。








フ――――ッ。






――――青空に神崎卓の吐き出す一筋の紫煙が流れていった。






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あきゅろす。
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