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< 悪魔の背中 >









―――――その音はざわめく廊下に再び沈黙を取り戻した。














パンッッッ!!!!











―――――しかし、頬を張られた色男は顔色一つ変えずにただニヤリと笑うのだ。



ゆっくりと壁から手を離して上体起こした神崎卓は首を傾げてただウィンクを一つ、落とした。










「――――人を呪わば穴二つってね」





―――――細められた目が愉悦に歪む。






「――――Are you ready?」






その甘い囁きは河野真咲にはっと冷静さを取り戻させた。



――――しかし、思わず自分の手を見つめても過去を取り消すことは誰にもできはしない。










「――――てめぇっ!!!」



横から伸びた拳をさっと避けて色男は本性をそのままにニヤリと嫌な笑みを貼り付ける。






「――――ま、気が変わったらいつでもどうぞ。もっとも、そんな余裕があればね」


そうニヤリと笑った男はさっと踵を返すと群衆を真っ二つに切り裂いていく。






「――――See you,Ladies」



―――――背中越しに手を振る男の背中を何が起きたのかわからない見物人たちが唖然と見つめていた。









『―――何!?今、あの子卓様の頬引っぱたかなかった!?』

『はっ!!!なにそれっ!!マジむかつくんだけど』

『おいおい、なんだよ、意外とじゃじゃ馬姫なのか!?』







――――冷酷な生徒会会長に河野真咲のような人間がいるように色男の会計にも当然そんな立場の人間がいる。

今の一撃で真咲の正体が浮き彫りになったとは思わないが、公衆の面前で神崎卓に手を出したのだ。











――――目をつけられないはずがない。








『――――人を呪わば穴二つ』



"自分の墓を掘る準備は出来たのか"と笑い狐は問いかけていた。





「――――――神崎卓」



河野真咲はぎゅっと拳を握りしめ、この先の己の学園生活が否応なく変わることを覚悟した。

正体がバレようが、一撃を食らおうが、相手がそれを待っていたのだと流石にもう気がついていたからだ。









―――――遊ばれている。




河野真咲はぐっと歯を食いしばった。







「――――大丈夫かっ、真咲!?」


掛けられた仲間の声に静かに頷く。







『――――そりゃもう優しく抱いてやる』

『隅から隅まで――――余すとこなくな』







――――憎い神崎卓の囁きが河野真咲の耳に木霊していた。










――――――悪魔に魂を売ってはいけない。



しかし、この先その悪魔に目を止めずにいることができようか。






――――その答えを消えてゆく悪魔の背中を追いかける群衆たちの視線が雄弁に物語っていた。






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あきゅろす。
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