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< 狂気と月と 4 >
ポタリ。
ポタリ。
――――ガラステーブルに転がったグラスから零れたワインは、白い絨毯を紅く染め替えている。
ウォルフの目前に突き出されたワインに穢れた指は微動だにしない。
はためく白いカーテンにぼんやりと照らす月。
―――そして、絡まったままの二人の視線。
不意に視線を逸らさないまま、ウォルフが舌でその指をねっとりと舐め取った。そして、細い指を口に含もうとした途端それは消えてしまうのだ。
優はエロティックに笑うと、身を翻してソファの前から横へと歩き出した。ウォルフに綺麗にしてもらった指が、高級ソファの生地をやさしく峰沿いに撫でてゆく。
―――ウォルフはソファ沿いにゆっくりと歩く優をじっと見つめていた。
左横から背へ。
背から右横へ。
そして再び前へ。
ソファの右端で細い指がピタリと止まっている。
それをウォルフの白い指がようやく捕らえた。
「――――優」
鼓膜を振るわせる声を放って、立ち上がろうとした体の胸に左手をあて優はそれを押し留めた。
――――黒い瞳がゆっくりと細められる。
そして官能的な紅い唇に細い人差し指が当てられて、優は「シー」と囁いてウォルフの体を縫いとめるのである。
「――――昔、こんな曲を聞いたことがあるんだ」
―――唇を離れた指がウォルフの頬をやさしく撫で上げる。
「――――"あなたは私のキスを拒むことができるわ。でもわかってるでしょ?今夜この月明かりに抵抗はできないわ"ってな」
指はすっと首に移り、首からシャツの上を通って、腰へ。そして太ももへと落ちていった。
「―――逃げれるか?今夜、この月明かりから」
――――ウォルフは無意識に息を吐き、先ほどからの緊張感を逃がそうとしていたが、優がウォルフの足を撫でて、両足を割るころには二人の緊張感はピークに達していた。
「――――俺も・・・・おまえも・・・・」
ウォルフの足の間に優の体が割り込むとパタリと殊更大きなカーテンの羽ばたきが部屋に響いた。
そうして、翡翠の瞳を捕らえた優は躊躇なく、ウォルフのジッパーに指を伸ばすのである。
――――妖艶な微笑みを浮かべながら今宵の宴を堪能するために。
邪魔なプライドなど投げ捨てて。
なぁ、ダンスをしよう。
光が二人を分かつまで。
踊ろうぜ。
――――俺とおまえと狂気と月と。
End.
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