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< 狂気と月と 1 >
―――――日が翳り闇が勢力増せば"今宵の夜"は幕を開ける。
そこはもう、闇の住人たちの舞台なのだ。
「―――歪んだ月とダンスをキメるか」
白いカーテンは月明かりにゆっくりとはためいて、密室の部屋に新鮮な空気が入り込む。
優は自分の性的興奮を隠しもせずに笑ってのけた。それは、ソファーに深く腰掛けている男の策略に対する皮肉なのかもしれない。
ドクドクという血液の流れは確かに速くなり、脳を犯し始めた。“ソレ”の存在になす術がないことをよく知っていた。
―――――見上げた夜空には揺れる月。
自身の視界が歪んでいるのか。
それとも月が歪んでいるのか。
すらりと窓側から男のいるソファーに近寄ると優の鼻腔を嗅ぎ去れた香水の匂いが掠めた。
ガラステーブルにグラスを置く動作は思いのほか乱雑になる―――。
―――――カツン。
悲鳴を上げて転がるグラス。
流れ出した真っ赤な液体。
――――まるで不思議そうに首を傾げた優はポタポタと垂れるそれをゆっくりと指に絡めて舐め取った。
けだるげにも思わせぶりにも見えるその緩慢な動作を部屋主はじっと見ているだけである。
――――毒の回りきった獲物がわが手に落ちるのを待っているのだろう。
再び、ワインを指で掬う。
だが、今度は口に運ばずにただゆっくりとソファに近づき男の口元に突き出した。
――――二人の瞳がじっと見つめあう。
どちらも瞬き一つしなかった。
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