Main
< 狐の花見 >
――――沈黙が重く伸しかかる廊下は今や最高潮の緊張で満たされていた。
集まった野次馬の視線は一心に渦中の二人に向けられている。
ごくり。
―――そう喉を鳴らしたのは一体誰だったのか。
やがてゆっくりと動き出した色男の首でシルバーチェーンが光を放つ。
ジャラッ、ジャラッ。
―――軽く首を回しながら歩く色男の視線は公衆の面前に現れた一人の少年を見つめて笑っていた。
「――――――花見ってのは皆で楽しむもんさ」
――――ニヤリと笑う色男からぽつりと零れたその言葉を聞いたものは誰もいない。
涙を盛り上げた嘘つき少年の瞳はただじっと神崎卓に向けられていた。
――――人の評価に耳を貸し勝手な言葉にステップ踏んで踊るダンスは反吐が出るほどくだらない。
つまらない下馬評押しつけて人が『走れ』とそう言えば、笑い狐は口の端を持ちあげてニヤリとその笑みを見せるだろう。
――――走るのはオマエたちだと。
無鉄砲な愚か者は笑い狐の大好物。
――――だが、忘れてはいけないのは傍観者を気取った野次馬たちも十分狐の視野に入っているという事実なのだ。
『――――It's a show time』
音に鳴らない呟きが零れると神崎卓のほどよく日に焼けた腕がゆっくりと伸ばされた。
――――指輪を光に反射させその手は壁へと向かっていく。
サァァァァ。
―――――風が木の葉を揺らす音が固唾を飲む見物人たちの耳に殊更大きく届いていた。
［*前へ］［次へ#］
[戻る]
[小説ﾅﾋﾞ|小説大賞]
無料HPエムペ！
携帯モード]
[
URL送信]
