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< ヒーロー >
「―――オッス」
軽く背を叩かれ隣に現れたのは、強豪サッカー部のエースである。
雪夜は先ほどまでの表情を微笑に摩り替えて挨拶を返した。しかし、次の瞬間にはそっと彼の目はコンクリートに逸らされるのだ。
――――笑顔がまぶしい。
そんな陳腐なセリフがこれほど似合う男はいないだろう。
―――雪夜はちらりと隣の人物を盗み見た。
短く刈り上げた黒い髪。
全身から匂い立つ日向の匂い。
精悍な顔立ちと均整の取れた体は、スレンダーな雪夜には到底太刀打ちできないガッシリとしたもので、ひそかに香る汗の匂いさえ不快さは全くない。
小麦色に焼けた肌はたくましく、笑うと覗く白い歯はひどくセクシーだ。
そのうえ性格も良いと来れば、女の子から引っ張りダコである。
―――運動神経は抜群で成績もほどほど良く、そのうえ嘘の付けない清廉潔白な男。
正直で、率直で、何事も前向きな彼は、誰からも頼りにされる。
漫画や小説の世界に置き換えれば言わば、そう。
――――ヒーロー。
「―限から数学か。まったく朝からやってらんねぇよな」
ヒーローは大きなドラム缶バッグを、肩にかけ直してそうのたまった。雪夜はくすりと小さく微笑を零す。
「成績優秀者の常連には言われたくないセリフだね」
「――――ご同類に言われたかないね」
ニヤリと笑ったヒーローと雪夜の視線が交差する。
二人は、どちらともなく笑い出した。
――――ヒーローの名は藤井康介(ふじいこうすけ)。
雪夜のクラスメートにして、もっとも近しい友である。
そして―――。
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