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< 散る桜 >










――――カチッ、カチッ。



指の腹を擦り減らしてもその安物の着火装置の口から炎が現れることはない。








「――――――ちっ」




――――"火"を着けないライターに用はない。


神崎卓はつまらない物体と化した代物を再び胸ポケットに入れることなどしなかった。










―――――カランッ。


階段の踊り場のその隅に安物の100円ライターが転がって行く。











『人に優しく自然に優しく』



そんなお優しい言葉にはただ冷たく笑って唾を吐きつけてやるただそれだけだ。





――――不必要なものはさっさと捨てる。




だから、"つまらない毎日"も包み紙というオブラートにくるんだら軽く丸めて、ゴミ箱という掃き溜めにさっさか投げ入れてやるだけだった。








――――この学園のNo.1ホストが"付き合っていた恋人"をあっさり振ってから数日。


ざわめき立った学園はしかし、まだその残り火に微かに燃えていた。







――――神崎卓の世界からその炎が消えるまであとどれくらいの猶予があるのか。



件の転校生然り、本件然り。

楽しいイベントの後に待っているのはいずれも反吐が出るほどくだらない毎日だ。









――――花はいつだって朽ち果てる。



せっかく残った花も散りゆく運命から逃れることは出来ない。







「――――散る桜、残る桜も散る桜ってね」






だが、残り火が微かに燻ぶっているそのうちはまだダンスの余韻を楽しめることを"笑い狐"は知っている。


だから、くだらない日常を包み紙でくるんで捨てるのはまだもう少し先の話なのだ。








「―――桜は散り際が美しいのさ」







―――――炎の灯らぬ煙草を咥えて神崎卓がニヤリと笑っていた。






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