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< 狼の逆襲 5 >
―――――ガタッ、ガタッ。
定期的に揺れる机と蠢く影。
「――はぁっ、ぁっ・・・くっ・・・」
常時余裕な表情を崩さないその甘いマスクは今はただ切なげに眉を寄せ、形の良い唇がうっすら開いて甘い吐息をつくだけだ。
荒い呼吸が耳に響く中で男は穿つことを止めぬまま、シャツから覗く丸みのないその肩に衝動的に噛みついた。
「――――くっ!・・・っぁ」
ニヤリと笑う食えない笑みも。
したり顔の甘いマスクも。
色気を垂れ流すその眼差しすら。
――――ただ男の情欲の全てを煽るものでしかない。
痛みに呻く卓に目を細めて、口を離した真田晃平はその赤く痕のつく傷口をねっとり舐め上げた。
閉じ込めて。
飼いつないで。
――――食らいつくしたい。
その双眸に自分以外を映さぬように。
――――晃平はゆっくりとずり上がって逃げるその腰を強引に引き戻し、相手の好む場所を強く突き上げた。
「あぁぁっ!・・・、くっ・・っ!」
きつく追い返すように締まる熱いそこは自分だけのもの。
――――他の誰にもやるつもりはない。
"神崎卓"のその一欠片さえも。
――――ガタッ!!!
「―――っっ!!・・んぁっ・・・」
晃平の指が長ける卓の怒張に爪を立てると、卓の腿に押された机が悲鳴を上げる。
―――どうだっていい。
雑魚がどんなに出てこようと所詮、雑魚。
―――――晃平は河野真咲という乳臭いガキを思い、程よく日に焼けた首筋にゆっくり手を這わす。
しっとり吸いつく肌に思わず舌舐めずりしながら、闇に目を細めるのだ。
"笑い狐"の興味を多少そそろうと"神崎卓"の意識がこちらに向いているうちは晃平にとってその存在は脅威ではない。
―――――だが、理性はそう思えど感情は気に入らぬ。
ぐっと掴んだ首を力いっぱい押さえつけると、晃平は己の怒張を殊更強く打ち込んだ。
「くぁっ!ぁっ!・・っ!・・ぁっ!」
―――――ガタッ!!ガタッ!!
肉のぶつかり合う音が頻度を早め、机の悲鳴がその酷さを増す。
"神崎卓"の目に映る全てのものが。
"笑い狐"の興味をそそる全てのものが。
――――真田晃平という男の癪に障って堪らないのだ。
晃平の指が卓の解放の促すように怒張を摩り、怒りが穿つその動きを速めさせた。
―――濡れた唇から荒い息が零れるのを情欲に濡れたその視線が犯す。
いっそ、移り気なその瞳をくり抜いて何も見せぬようにしてやろう。
いっそ、この世の全てをはぎ取って木っ端みじんに粉砕させてやろう。
――――くだらないこの世界がありのままの"事実"を認めるように。
―――――"神崎卓"の全てが真田晃平のものだと誰もが理解するように。
「――――――――――っ!!!」
腹を突き破るような大きな一撃に快楽の絶頂に達した神崎卓の体がピンっと強張って、やがて机に乗せられた腰が一瞬震えその足からは力が抜けていった。
―――荒く机の上で息を突く端正な横顔が月の明かりに照らされる。
晃平は同じように荒く息を吐いて卓の両脇に両手をついた。
―――そして、魅惑的な首裏の汗をねっとりと舐めあげてニヒルに笑うのだ。
―――――世界を破壊すれば"神崎卓"は"神崎卓"ではなくなる。
鎖に繋がれた"ひねくれ者"はもう"ひねくれ者"ではないのだ。
――――晃平は長い髪を乱暴に掴んで耳たぶを愉快そうに舐め上げながら甘く睦言を囁いた。
「―――おねんねすんのはまだ早えぞ、色男」
――――賢き神にして荒技を好む。
狼を人は孤高の神だとそう言うが、"孤高"にならざる得ない理由がそこにはある。
真田晃平で言うなら。
―――惚れた相手がそうさせる。
自由奔放なひねくれ者は簡単にこの手に留まりはしないからだ。
――――晃平はじろりと向けられた反抗的な瞳を鼻で笑った。
「―――俺を煽った責任はきっちり取ってもらおうか」
――――だから、飢えると知っていて腹ペコ狼はそっと笑い狐を逃がすのだ。
また追いかける日々が続くとそう知っていながら。
――――7月7日、一年に一度だけ織姫と彦星は"星合"を許される。
だが、真田晃平には約束された"逢引"などない。
非難されようが中傷されようが力づくで有無を言わさず、その体を掴み取るしかない。
―――だから、自由奔放なひねくれ者を捕まえた今日と言う日。
―――――Never miss a good chance.
その好機を逃がしたりはしない。
晃平は勢いを落とさぬその怒張をゆっくりと出し入れして、勝ち取った獲物の体を小刻みに揺さぶった。
「――――コーヘー君、愛ってほどほどが一番よ」
うんざりと見上げた瞳が晃平を横目に睨んで、ふざけた愛の言葉が送られる。
――――男は闇夜に紛れて月に笑った。
「――――言ってろ、ひねくれ者が」
―――――ほどほどの愛などいらぬ。
互いそう思っていることを二匹の獣は知っている。
この恋は食って食われる獣の恋。
――――追って追われて相手の首に食らいつく。
貪欲で。
狡猾な。
―――果てのない歪んだ愛だ。
「――――オマエが逃げ回った二週間分。きっちりここで俺を絞り取れよ」
――――暗い闇が浸食する教室で月の灯りだけがぼんやりと蠢く二匹の獣を照らし出していた。
End.
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