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< 狼の逆襲 4 >







――――“神崎卓“を言い表すなら雲。


風に流されるそれは形があってないようなもの。

一箇所に落ち着かず、その手に掴むこともできない。







―――だからこそ、この手に留め置きたいとそう願ってしまうのか。





真田晃平は抱える飢餓に1人自嘲する。









月のささやかな光に照らされて、教室には荒い息と濡れた音、そして肌がぶつかり合う音が交り合っていた。








「はぁっ!・・・ぁくっ、っ、ぁっ、」






「―――ここ、いいんだろが」




机の上に押し付けられた卓は背後を取られた形で机の上に頬を寄せる。


―――首を片手で押えられては起き上がることも出来なかった。


ただ今はしつこく後ろから突き上げられる律動に少しでも喘がぬように唇を噛むしかない。





―――狼との情事はひたすら後ろで快楽を覚え込まされる。





それこそ、男がいなければ満足できぬ体にしたいとでも言うように。







「――――言えよ」

冷静に命令する男に卓は唇を噛むその力を強めた。






「――――"イ・か・せ・て"ってな」





耳元でゆっくりと誘導するその声に返る言葉はない。






「ぅんっ!・・ぁ、くっ!・・・ぁ、ぁっ、・・」





――――前の起立をぎゅっときつく止められながら、男の怒張が遠慮なく一点を狙って突き上げていた。







「――――オマエのその減らず口ならいくらでも言えるだろ?」




小刻みな律動が卓の体を揺すり、ムリな体勢を強いられた足にはピンっと力が籠る。




――――一滴うっすら浮かぶ透明な滴が卓のなだらかな首の曲線を流れて落ちて行った。










――――不意に動きを止めた男は低く冷静な声で呟くのだ。






「――――まぁ、いい。どうせオマエには言えやしねぇんだから」



月の光を背後に従えて皮肉げに笑った男を卓は振り返えらなかった。

その瞳にはただ無残になぎ倒された机と暗い廊下へと続く半開きのドアが映っていた。






「――――はっ、生憎俺は“お優しいレディ”なんかじゃねぇのさ」






――――狐の低いうなり声に背後の男はただ笑う。






「――――んなことは見ればわかる。てめぇは男だ。――で、だからどうしたよ?」







――――“もし“




そんな不確かな言葉はいらない。


あるのはただ目の前の男に執着しているという事実だけだ。

それは架空の未来を望むような生半可なそれではない。




―――そんな柔な思いなら始めから狂ったピエロに執着したりはしない。









この飢えを。




この渇望を。






――――唯一満たすことのできる男。




晃平は目の前の長い髪を乱暴に掴むと机から卓の顔を上げさせた。

そして、ゆっくりと耳元に唇を寄せる。







「――――知ってるか、狼ってのはなてめぇの雌を一度決めれば一生そいつと過ごすんだそうだ」








半端な覚悟では食えないひねくれ者を欲する権利すらない。





―――だから、全身で教えてやるのさ。







「――――オマエはな、俺の番、俺の雌だ。―――はっ、男だろうが女だろうが関係ねぇな」



皮肉げに笑う甘い声がその耳を犯す。







わからねぇなら何度でも教えてやるよ。



――――オマエは俺のもんだと。






「―――今更、逃げられるとでも思ってんのか」




―――――歪んだ愛の告白にも瞳の意志を崩さない相手を晃平はじっと眺めてすっとその手を離した。




上体を起こす男の横顔を月の光がゆっくりと照らし出す。

その双眸は冷めているようでいて、しかし熱い渇望を湛えていた。





―――薄く形の良い唇が酷薄に弧を描いて、歪んだ愛の呪縛を告げるのだ。








「――――オマエはもう逃げられねぇんだよ」





――――その魅惑的な低い声が絶対の力を持って神崎卓の背に重く伸しかかった。




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