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セクシーマンの覚悟
――――なぁ、陣よ。
俺はこんなもん、最後まで墓に持って行きてぇのさ。
冷たい墓石の下によ。
―――業火の炎で昇華されちまえばいいってな。
そう思ってたんだぜ?
―――セクシーな俺とクールなオマエ。
何だって面白がる俺の隣にはいつだって冷めた目をしたオマエがいて、俺がふざけた言葉で獲物を嬲ればオマエは無慈悲にそいつをこき下ろす。
―――低俗な世界の果てを見下ろして二人で高みの見物さ。
そりゃ、ワイン片手に百万ドルの夜景を見る、それ以上の価値がある。
傷口をえぐるオマエの毒舌具合は俺には最高のつけ味で、力づくで全てをなぎ倒していくオマエの横で俺はただうすら笑ってればいいのさ。
まぁ、アイツらに言わせりゃ、最低最悪のヒールズだろうよ。
姑息な俺と力づくのオマエ。
―――最高だろ?
絶対の力を持つ俺達の間に踏み込める奴なんていやしない。
女も男も俺たちの前にただ道を開けるだけで、悠々と俺達はその道を歩けばいいだけなんだからな。
―――羨望と尊敬と畏怖。
その全てを勝ち取って、ゆっくりと下げられた頭を見下ろやるのさ。
ああ、そうさ。
今更だな。
認めるよ。
――――オマエの"隣"は、いつだって俺には最高のエンターテイメントだってな。
――――だが、なんなんだこれは。
反吐が出るほど気まずくて苦しい苦しい味のするこれはよ。
――――俺は"隣"の代償を払う気でいたんだぜ。
どんな奴にだって金も借りも返したことのねぇ、この最低の俺がさ。
あくどいことなんざ、さらさら平気、いい子ちゃんにはうんざりのこの俺が。
――――オマエの"隣"にツケ払うつもりでいたんだ。
このくだらない感情なんてよ、オマエの“隣”とシーソーにかけるまでもないからな。
なのに代償を払う覚悟のこの俺を、オマエはどうして―――。
『―――やらせろよ』
――――オマエの力づくが俺に向かうことなんて一生ねぇと思ってたさ。
性欲処理の相手はオマエに群がる女たちだけだって思ってたさ。
―――はっ、オメデタイだろ?
口に出す気は毛頭ねぇが。
なぁ、陣。
―――――"悪友"。
そう思ってたのは俺だけってわけか。
――――怒りを通り越して呆れて物も言えやしねぇ。
この俺が都合の良い勘違い野郎だったなんてよ。
最高のお笑いぐささ。
―――それとも、あれか。
俺が思う以上にオマエが極悪非道だったってやつなのか。
ああ、そうなのかよ。
―――空気を読めないアイツがオマエちのドア開けた時。
俺は馬鹿なアイツに初めて感謝したね。
―――これでオマエの"隣"を失わずに済むってな。
どう思っての行動なのか、この際聞きたくはねぇし、考えようとも思わねぇ。
オマエにはオマエの、俺に伸しかかる理由ってやつがあったんだろうよ。
むしろ長い付き合いの悪友すら友とも思わないオマエにいっそ残酷無慈悲なオマエらしいとすとんと心が納得しちまうのは、なぁ、惚れた弱みってやつなのか。
――――陣。
オマエにはオマエの理由があるように。
―――俺には俺の覚悟ってのがある。
―――死んだ人間は生き返らない。
墓場行きの恋は蘇っちゃいけねぇのさ。
だから、なぁ、陣。
――――この俺の覚悟を揺るがすな。
――――この恋に火はいらねぇんだ。
End.
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