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< Counting the days >
―――昼食後の教室にはカーテンを揺らす生温かい風が吹き抜ける。
教師の念仏が生徒たちの眠気を誘い、お腹の満たされた生徒たちは当然机にひれ伏して屍と化していた。
だから、その数の多さに起こすことを諦めた大量殺人者は、溜息ひとつを落として著名な詩人について語り続けるのである。
―――――氷川亨はこれほど曜日というものを指折り数えたことはない。
ブルブルと胸ポケットで携帯が震えるたび期待に胸を弾ませて表示画面に見入ったこともない。
いつだってそれは相手の役目だったから、この学園の王様が本当の恋に胸躍らせることなどのなかったのである。
「―――――ちっ」
―――だけど、今は愛する恋人に会える日を指折り数えて待っている。
いつもは談笑の響く賑やかなこのクラスには、ここ最近教師の念仏以外は何も聞こえないという奇怪な状況が続いていた。
携帯が震えるたび殺気立つ王様が不機嫌そうに舌打ちを繰り返すものだから、そこに居合わせるしかない教師と哀れなクラスメートたちは『不機嫌な王様』という名の嵐が過ぎ去るのをただひたすら静かに待っていたからである。
『――――はい』
―――何度見返したって電気媒体に浮かぶその文字が受信者に都合良く変化するなんて奇跡は起きない。
だけど、そこにある何の変哲もないたった二つの文字は、さびしんぼの王様の心をほんわか暖めてくれるのだから、本当は贈られた言葉が何かなんて関係ないのかもしれない。
―――ただ愛しい人からの思いがそこに込められているのなら、それがどんな言葉だろうときっと受けとる側には素敵な恋の呪文に間違いないからである。
――――日に焼けた精悍な顔はわざわざ迎えに出向いた王様に一体どんな表情を見せてくれるのだろうか。
数時間後、さびしんぼの王様の元にはとうとう陸上という間男に攫われた愛しい恋人が戻ってくる。
さらっと「明日学校で」なんて、疲れた恋人の体を労われるほど聞き分けの良い大人にはまだ慣れない。
――――だから、会いたいという気持ちのままに会いに行く。
若い恋独特の積極性なのか、それとも特有の俺様気質故なのか、大人への階段を登り始めたばかりの王様の視線は腕時計の針から一向に動かないのである。
「――――ちっ」
今日に限って何度も何度も、いつも以上に舌打ちを繰り返す王様に、ビクッと固まる教師はもはや泣きそうだったのだけれど、不機嫌な王様に意見する勇者は残念ながらこのクラスには誰もいないのである。
――――学園の騎士様の不在を本当に指折り数えて待っているのは、この教室の生徒とその担当教師たちなのかもしれない。
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