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< GAP -Another- >
「―――いないし」
―――放課後の校舎でこの学園のお姫様はそっと口を尖らせる。
挨拶をするというからなるだけ急いでここに来たというのに肝心の幼馴染の姿はもうそこにはないのだ。
―――腹黒天使の頭の中では我儘な王様への不満がいっぱい渦巻いていたけれど、幸いなことにその頭の中の罵詈雑言を聞きとめることができる人間はこの世にはいないのである。
「――――この私では不満ってことかな」
ゆっくりと智彦の横には神出鬼没なこの学園の陰険王子様が湧いて出る。
「――――日頃の行いを胸に手を当ててよ〜く考えてから、そうゆうセリフは言ってください」
―――冷たい視線の書記様は今日はまだ甘い恋人モードにはなってはくれないらしい。
だから、王子様はひょいっと片眉を上げると、優雅に胸に手を当てて見せるのだ。
――――そして、ニッコリと笑って囁くのである。
「――――私が一番君を愛してるとここはそう言っているけど?なんなら今ここで証明して見せようか?」
―――厚顔無恥な恋人を持つのは大変骨が折れる。
はぁっとため息を吐く書記様の耳は密かに真っ赤に染まっていたのだけれど、その色素の薄い髪に隠れて大衆の目に晒されないのが、大いに智彦の救いであった。
「――――もういいです」
再び口を尖らせた書記様はスタスタと1人で校門へと歩き出す。
―――その背中をクスクス笑って見守る陰険王子様は策士な腹黒でもある。
「――――皆様も素敵な日々を」
怒った王子様の恋人はきっと校門を出た辺りで歩調を緩めて待っているに違いないのだ。
――――こちらに向かってニヤリと笑った王子様は優雅に一礼すると愛しい背中を思って歩きだした。
放課後の校舎には今度こそ誰もいなくなっていた。
End.
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