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< 王子様 >




――――いつもの如く青空が晴れ渡っていたその日、放課後の特Aクラスには数人の生徒達が残る以外に誰もいない。


夕日のオレンジ色が校舎内を包む。





―――廊下に漏れてくるのは語尾の荒いかすかな罵り声だった。







「―――――おい、神崎卓を落とせっていったろ?」

「ねぇ、まだ何もしてないの?アイツを落としてこっ酷く振ってもらわないとさ、困るんだよ僕ら」

「生徒会の中でもさー、チャラいあの男なら簡単そうじゃん?なのになんで出来ねぇーの、オマエ、ホント使えねぇーな」

「さっさと落としてひと泡吹かせてよ。じゃないと全然面白くないじゃんか」







――――ガタガタッ。



細い体は机と重なり合って倒れていく。

うずくまる子羊はいっそ哀れなほどだ。







――――廊下の壁に凭れて神崎卓は目を細めて笑っていた。


ゆっくりとその体は特Aクラスへと消えて行く。








「――――お嬢様のお気の召すままに」


聞きとれないほど小さな呟きが人通りのない廊下に残されていった。






―――ねぇ、ラプンツェル。

君の願いを叶えてあげようね。





王子様役なんて好きじゃない。

だけど、それがシナリオに書かれているのなら。






――――仕方ない。







「――――ニーチェは言った。戦争の不利になるようにいえば、戦争は勝者を愚鈍にし敗者を邪悪にする。戦争の利益になるようにいえば、線早々はこの二つ作用において人を原始的にし、それによって一段と自然的にすると」







――――最高の王子様を演じてあげる。



夢を売るのが仕事だからね。

愛を囁くのが仕事だから。








「―――特Aの皆様は原始に逆戻りをお望みで?」





でも、覚えておくんだよ、ラプンツェル。





――――この代償は高くつく。



神崎卓は驚きに息を飲む男たちにニヤリと不敵に笑っていた。




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