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< 狐つき >
―――一体誰の心を表しているのか、お気に入りの場所から見上げる空は生憎の曇り空。
ぽつぽつ降る雨の匂いが湿気と交って神崎卓の鼻をくすぐっていた。
階段の壁に背を付けて、居合わせた男が紫煙を吐きだす。
「―――なぁ、おまえに惚れる奴をなんて言うか、知っているか?」
男の対面の壁に背をつけていた卓は、覗きこんでくる瞳にさてねと無表情で返した。
「――――"狐つき"。そうゆうのさ」
ちらりと投げられた視線に狐はふーっと紫煙を吐き出すだけだ。
「―――――で?」
しっかりとその双眸を向ける風紀委員長は事件の真相を知ろうとする刑事のように隙のない視線で卓を見ていた。
「―――――"狐つき"はワンナイト。・・・・そう思ってたんだけどよ。一体どんな宗旨替えなんだ。それも生徒会嫌いの特Aクラスとはね」
ただ肩を竦めた卓は無言で煙草の煙を吸い込んだ。
――――雨はまだ止みそうにはない。
「――――そりゃ、狼も荒れるわな」
男がニヤリと笑っていたが、卓は先の短くなった煙草を缶コーヒーに投げ入れるだけだ。
――――――ジュッ。
火が消える音とともに最後の紫煙が曇り空へと登って行った。
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