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< 番犬 >
――――"久居要"の周りが騒がしい。
夜の領分ではまだ小さなその噂を真っ先に嗅ぎつけたのはどの"犬"だったのだろうか。
―――とある地下のクラブでは今夜も金を落として若者たちが享楽の世界を堪能していた。
耳をつんざくような音楽が流れる中で、ある男たちの会話を聞き分けた新橋恭平は眉間に皺を寄せる。
「――――――で、いくら貰えるんだ」
「それが結構な値らしいぜ。どっかの社長にちょっと嫌がらせすればいいらしい」
「マジかよ。いい小遣い稼ぎじゃねぇの、それ!」
「――いや、でもデマかもしれねぇぜ?」
片隅でビールビン片手に小声で話す男たちの背後に立つと恭平は二ッコリ笑った。
「―――――――その話、もっと詳しく聞かせてもらおうか」
――――都内某ホテルで篠崎祐一は、"昼"のお得意先の言葉に目を細めた。
「久居家の二男は本当に不運だな。どうやら大物の誰かを怒らせたようだが・・・・」
「―――それはどうゆうことでしょう?」
"ビジネス"がまだ終わっていないことに気付いた祐一は話の先を即す。
―――閉まったばかりのキャリーケースを手繰り寄せ今提示できる額を思い浮かべるのだ。
「―――――この仕事は受けらんねぇ。おい、この仕事の依頼主洗っとけ」
―――条件と金次第で何だって叶える"何でも屋"、吾妻庄治はドカっとソファに座り足をテーブルに投げ出した。
紫煙をくもらせながらも、その手は携帯電話へと伸びていく。
――――"仕事"をするには相手が悪い。
長年の悪友がコールに応えるのを待って、庄司は思わず舌打ちしていた。
黒塗りのベンツに乗り込む手を止めて柳竜也は耳を欹てた。
―――掠めた密かな外国語。
不審に思った部下が話しかけてくるのを手で制す。
話の内容を聞きつけて目を細めた竜也はすぐに車に乗り込むと急ぎ車を走らせるよう部下を急きたてた。
―――――昼と夜との境界線。
一般人が決して気づくことのないその狭間で、夜の番犬たちが昼から流れ着いたその小さな噂を耳にした時。
――――ゆっくりと、しかし着実にそのゲームのターンは変わろうとしていた。
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