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< 密偵 >



――――暗く灯りのない部屋に白い紫煙が昇り立つ。

酷薄な瞳が闇夜に光り美麗と言われる久居要の顔がうっすらと浮かんでいた。



――――一口に怒りと言ってもその表現は十人十色。


文字通り烈火の如く怒り狂う者もいれば静かに淡々と冷たい怒りの炎を宿す者もいる。

その表現は千差万別で一概に表すことは出来ない。

敢えて言うのならば後者の部類に入るだろうと要は自分をそう評していた。

静かに燃える炎は強く拳を握らせるよりも、眠る頭をフル稼働させどう対策を取るかを冷静に算出していく。





――――宣戦布告から2週間。


会社への嫌がらせ数度、個人的なものも含めればさらに多い。

買収計画の邪魔から始まり、協力会社への圧力、買収の横どり、社員への嫌がらせ、内容も様々だ。プライベートでは一歩間違えば傷を負うそんな場面すらあった。





――――――おかげで飼い犬達も騒がしい。


何より煩わしいのは犯人が毎度違うことにある。どの件も犯人はすぐにわかる。相手は会社であったり個人であったりと様々だ。



――――しかし、そこには共通性がない。


言い換えれば、背後に忍ぶ大きな黒幕にまだ辿り着いていないということになる。





久居要は目を細めてふーっと紫煙を吐き出した。

その紫煙の中にぼんやりと一人の男の姿が浮かび上がった。



「――――本当は初めから目星付けてたんだろ、あんた」


――――世能佐鳥(せのうさとり)はにやけた笑いで雇い主を見た。


要は汚らしい格好の男を一瞥すると忠犬の名を呼ぶ。ぱっと明かりの灯った部屋には3人の男が浮かび上がっていた。



ひとり、貪欲な氷の帝王、久居要。

ひとり、久居要の忠実なる犬、リヨン・神田・グステフ。
ひとり、昼と夜の狭間に住む密偵、世能佐鳥。




「よぉ、リヨン」

軽く手を上げた世能にさながら操られる人形のように神田が小さく一礼する。顎鬚を蓄えた男はにやけた笑みを外すことなく要に視線を送っていた。



「―――お望み通りの確証をもってきたぜ」

懐からタバコを出すと100円ライターで火をつけた。世能の安いタバコの匂いが部屋に充満して要は眉間に皺を寄せた。


「―――――リヨンに言われた奴らを調べたところ・・・・4人中、ま、2人黒だな」


発端の野村物産買収の話は会社の一部と先方のトップしか知らない情報だ。まして先方の資金提供はあまりにタイミングが良過ぎるのだ。

まるで正式契約目前がもっとも精神的打撃が大きいのを狙ったかのように―――。


契約日の日付はあの日の前日に決められたもの。


それが指し示す物。



―――それは相手が身内であることにほかならなかった。




身内で莫大な費用を持ち、久居要に恨みを持つ者。



――――それは久居本家でしかありえない。


各々のスパイたちが社員の中に紛れているのは要の認識下にある。


――――だからこそ、それを利用し一体本家の誰が相手なのかを知るために要は世能に内部調査を行わせたのである。




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あきゅろす。
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