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< 棒飴とスケートボード >
Everyday, I’m alone.
So, always, I think.
――――What’s wrong? Why?
Dear my lover, I have’nt seen yet, help me from this world.It is so cold and sad .
―――――食堂に現れた遠藤宏也(えんどうひろや)に話しかける者は誰もいない。
"ヒロヤ"と言えばこの学園の誰もが知っている"変わり者"だからだ。
キャップ帽を深めに被りだらしなく着崩したB系は、耳から下げるイヤホンからいつだってシャカシャカと音を溢れさせている。
手に持ったスケートボードは彼のトレードマークで、廊下だろうと校庭だろうといつだってそのボードで移動しては風紀委員に追いかけられる毎日を送っていた。
小さな体をさらに猫背にしてすばしっこく逃げる彼は風紀委員のブラックリストの常連なのである。
―――しかし、もっとも周りを敬遠させるのはいつだって眠そうなその半眼なのかもしれない。
造形は悪くないのに無表情を絵に描いた男は、笑い一つ洩らすことなくその半眼でじっと周囲を見据えているのだ。
―――――俺に近づくな。
さながらそう言うが如く他人からの接触を嫌う雰囲気が彼から常時醸し出されていたのである。
―――ずっとずっと1人だった。
隣はいつも空席で寒い風がひゅうひゅうと吹いていた。だから、尋ねる奴にいつだってヒロヤはこう答えて来たのである。
『――――気づいたら一人だった』
その言葉には語弊がある。
気づいたら一人だったんじゃない。
気づいても一人だったんだ。
何がいけないのか、考えて考えて、考え続けて止めた。ついに考えることを放棄したヒロヤは今度は誰も寄せ付けないことにしたのだ。
隣の席の空席が人間性を測る尺度な訳がない。
―――だけど本当は答を知るのがいつだって怖かったのかもしれない。
「―――ヒロヤ」
この学園で唯一その名を呼ぶのは悪友の赤石睦月(アカイシムツキ)だけである。
大音量で流れている音楽で聞こえるはずのない呼びかけに、しかし顔を向けたヒロヤは自分より少しだけ背の高い西洋人形の横にちょこんと座る。
ムツキの金髪が揺れるのを見てヒロヤはやはりムツキはヒヨコだと思った。
一方、ヒロヤの耳から片側のイヤホンを奪っていたムツキはぼーっとしているヒロヤをそのままに勝手に昼食を注文し始めていた。
――――『ヒロヤ』と『ムツキ』
寄り添うように机に座る異色の二人をいつだって学園の者たちは遠巻きに見つめているが話かける勇気のあるものは誰もいない。
棒飴を咥えるのがトレードマークの金髪蒼眼の綺麗なムツキとスケートボードを片時も離さないB系な問題児ヒロヤ。
―――彼らはこの学園でもっとも有名な"変わり者"コンビだったのである。
『――――ここ、いい?』
空いた隣の席を見てヒロヤにそう尋ねてきた人間は人生で生まれて初めてだった。
驚いているうちに勝手に席に座ったマイペースな外人はいつの間にかまるで空気のように横にいるようになっていた。
――――"気づいたら横にいた"。
言い表すならば、その言葉がぴったりなのだ。
拒否することも積極的に干渉することもないムツキとの関係はずっと1人だったヒロヤにとって優しくてとても居心地のいい空間だ。
警戒した猫がすっとその警戒を解くようなそんな憩いの場所。
「――――ヒロヤ」
ムツキに寄りかかって眠っていたヒロヤは小さくシャツを引っ張られてゆっくりと目を開けた。
―――差し出されたのはいつものオムライス。
小さく頷くヒロヤにムツキがおかしそうに笑っていた。
――――だから、今度尋ねてくる奴がいたらヒロヤは迷わず胸を張ってこう答えることに決めている。
『――――――気づいたら二人だった』
ずっと二人でいたいとはまだムツキには伝えていないけれど、言ったらきっとムツキは優しく笑ってくれるとヒロヤはそう思っている。
End.
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