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< 危険区域 >






「―――――宗助、そこの書類を」


紺野真彦の涼しげな声が生徒会室に響くと、クーラーの微風に髪を揺らして楽しそうに"狐"が笑う。





「――――――神崎」

鋭い叱責が飛んで初めて「へーい」と降参のポーズをとるそのふざけた男を真彦は睨みつけた。





―――――宗助、真彦。


幼馴染が互いの名を遠慮なく呼ぶことのどこが面白いのか。


――――"あの日"からその名を呼ぶたびに"狐"の忍び笑いが耳に響く。


人の嫌がることが大好きな狐の"揶揄"に良い気分はしないが、かっと掴みかかるようなことはしない。





――――この学園の聡い者たちは知っていた。


ホストのような甘いマスクで悪戯な言葉を囁く色男、そいつが一番タチの悪い族なのだと。


"笑い狐"の大好物は"人の嫌がる顔"だから下手に扱いを間違ってはいけないと。



ちょっと油断をしたその隙にあっという間に化かされて気づいた時には手遅れだ。


誑かされたなら文句も言えず、知らぬ間に人形にされて気づいて泣くのは自分である。


―――夢から現実に戻ればその手には何も残っていない。



ただ、その耳に狐の笑い声が届くだけだ。







―――――"取扱注意"。


それが"神崎卓"という男だった。





――――この学園に近づいてはいけない人物がいるとすれば、まずその筆頭の1人は彼だった。







「―――――――紺野」



そして、筆頭のもう一人は真彦の背後、会長席に座る"人でなし"だ。





――――神崎卓が"取扱注意"なら、真田晃平は"触るな危険"。



危険人物に名を呼ばれた真彦はゆっくりとその声の主を振り返って目を細めた。




―――ひっそりと忍び寄る"狐"と正面から食らいにくる"狼"。



マシなのは一体どちらだろうか。



飢えた"狼"を前にして、面の皮の厚い"狸"はそう薄く笑った。


―――傍観者に徹する"熊"がそんな彼らにただ苦笑を返す。







Wake not sleeping lions.


眠れる獅子たちを起こしてはいけないよ。

あっさり食べられてしまうんだから。





――――この学園の生徒会室は今日も危険に満ちている。


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