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< Fake >
―――夏休みを挟んで気温が下がり始めた9月、季節は順調に秋口へと向かい始めていた。
衣替えも終わりカーディガンを身にまとった優秀な"書記様"とこの学園の"副会長様"は、秋の体育祭を前に生徒会室で忙しく動き回っていた。
いや、動きまわっているのはストを起こした会計の代わりに、せわしなく手を動かす"書記様"だけであった。
―――宮島幸はちらりと猛烈な速さでキーボードを打ちこむ"鬼書記"を盗み見た。
「――――先輩、よそ見する暇あったら目の前の仕事、片付けてくださいね」
途端、こちらを見もせず飛んでくる憎まれ口に、両手を上げて苦笑するしかなくなってしまうのだ。
――――――"口止め料"を巻き上げても、巻きあげなくても冷たい"書記様"の態度は変わらない。
ここ二月、なんてことはない平和な毎日を送った男は、ひょっとすると携帯に保存されている"口止め料"すら最初からいらなかったのではないかと思い始めていた。
リアクションがあったらあったでイライラしたに違いないのだが、ないならないで肩透かしを食らったような気分なのである。
―――まぁ、それほど興味があるわけではないが・・・。
冷酷な宮島幸は頭をすっと切り替えて、今夜も密会予定のセクシーな保険医に思いを馳せた。
だから、すっかりそんなことは忘れていたのである。
――――長い夏休みだったというのに日焼けひとつしていない白い肌は中に浮いているようにすら見える。
さっと手を引っ込めた書記の顔はこの世の終わりのように真っ青で、体を痙攣し始めた相手に幸はあっけにとられて何も言うことができなかった。
―――書類を手渡した際にちょっとだけ手が触れ合った、それだけだというのに。
―――――また騙されてしまった。
失礼しますとカバンを持って逃げ出した書記の背中を見つめて、取り残された男はそう思った。
"態度が変わらない"なんて嘘なのだ。
"口止め料"を巻きあげたから、一緒の部屋にいるのもきついほど本当は嫌われてしまっていたのだとようやく我儘な"王子様"は気がついた。
――――"腹黒王子様"とあろう者がここ二月、とても賢い"腹黒天使"にまたもや一杯食わされてしまっていたのである。
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