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< Blood will tell >
――――しばらく使われていなかったのだろう部屋は湿っぽくて、そのうえカビ臭い匂いが充満していた。
そこは何やら智彦にとって宜しくないものが出てきそうな気さえして、大の虫嫌いな智彦はそれだけは止めてくださいと思わず神様にお願いまでしてしまった。
―――――床の冷たさを頬に感じながら心の中で小さくため息を吐く。
昔は近所でも有名なガキ大将で喧嘩に負けたことなどなかっというのに成長期を迎えて身長をぐんぐん伸ばしていった周りに、今や力では叶わなくなってしまった。
それは智彦の小さなプライドを大いに傷つけたのだが、この小さな体ではいかんともしがたいと月日が経つごとに諦めをつけていたのだ。
「・・・くっ・・・ぁ・・・・・っつ・」
―――――今思えば、諦めなければよかった。
智彦は傍若無人に動く見知らぬ男の存在を内に感じながら、今更ながらにもっと抵抗して、プロレスでも武道でも習っておけばよかったと後悔した。
全身の痛みに唇を噛みしめて感覚を無にしようと普段使わない頭を必死で使ってみる。
―――だから、カシャっと場違いな音を立ててフラッシュがたかれても今の智彦はそれどころではなかったのである。
「―――――遊びとはいえ、彼女一応"理事長の娘"でね。私もおかしなスキャンダルは御免だから、これは口止め料ってことでもらっておくよ」
見知らぬデカイ男を連れてきて"犯せ"とあっさり命令した学園の"王子様"は爽やかな顔でそうのたまった。
―――だったら保健室のマドンナと関係など持たなければいいのだ。
そう思ってはみたものの、口に出す気力はゼロだ。
―――"大人"の対応の"御礼"が、まさかこんな結果で返ってこようとはさすがの"腹黒天使"でも思いもしなかったのである。
「・・・っく・・・っ・」
"歯"を食いしばった学園の"お姫様"は自分が情けなくて情けなくて泣けてきそうだった。
―――釘を刺さなくても随分前からわかっていたのだ。
仮にも"お付き合い"なるものをしていた間柄。
堂々と人前に紹介されることもなく、生徒会室以外では友人のフリ。
誰だって気づかないはずはないではないか。
―――それは決して"好きです"なんて、口に出せる状況ではなかったのだ。
本当になんて"サイテー"で"タチ"の悪い"王子様"なのだろう。
そして、そんな"悪魔の申し子"が好きな自分は、やはり相当おかしい趣味なのだと智彦は心の中でがっくりとうなだれてしまった。
―――床に立てた爪の間から流せない智彦の涙の代わりにじんわりと血がにじみはじめていた。
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