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< Parallel lines >

憂鬱な梅雨の時期を終えると、嬉しそうな太陽は俄然勢いをつけて真夏へと騒ぎ出す。

安物のエアコンがただでさえ広い生徒会室を一生懸命冷やしているのだが、残念ながらあまり効果はなかった。



「―――結局、君は"彼"のために私に体を差し出したのかな?」


"会長席"に近い大きな窓を眺めてこの学園の"王子様"は静かに問いかけた。

疲れ知らずな陸上部員達が熱に蒸された校庭で今日も元気に部活動に勤しんでいる。


この学園の優秀な"書記様"は書類に埋もれた机からゆっくりと顔を上げるとその優雅な背中に目を細めた。



「以前に申し上げたことを再び繰り返さなければならないほど、副会長は愚かではないと思いますが?」

自然、智彦は"不在"の会長席が目に入ってしまってむっと顔をしかめてしまうのだ。




――――きっと無口で優しい智彦の幼馴染は今頃、独占欲の強い恋人に捕まって早々に部活動から連れ去られたに違いない。

生徒会室を白い霧で覆い尽くした罪で強制連行されただろう"一番の友達"を思うと堪え性のないその"恋人"にむかっ腹が立ってしかたない智彦である。





「――――聞かれたくはないということ?」

手を組んで意味深に探りを入れる男は本当はたいしてその答えに興味などないくせに、いつもいつも同じ質問を繰り返す。

表面的なやさしさを表すだけで人の言葉になんてちっとも心動かす気のないこの男は、単純に全てを把握していないと気が済まない、ある意味、この学園の"王様"よりもタチの悪い"独裁者"だと智彦は思っている。



「過ぎたことだと申し上げているんです」


だからいつだって智彦は、その答えの無意味さを知ってうんざりと同じ言葉を繰り返してしまうのだ。


―――にっこりと微笑む食えない"王子様"と無視を決め込む"腹黒天使"。


そんな二人の平行線は、"腹黒天使"な"書記様"がこの学園の食えない"王子様"にバッサリ別れを切り出したあの日から、放課後の生徒会室でよく見られる"定番"になってしまっていた。




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あきゅろす。
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