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< Dear my friend>
―――コンコンコン。
授業が終わりを告げて生徒会の仕事を始めてしばらくたった頃、控えめなノックの音が生徒室に静かに響いた。
智彦はゆっくりと片付けの準備に入った。彼の大切な腕時計の針は午後7時の時刻を指している。
――――十年来の親友は約束を反故したこともまして遅れたこともないのだ。
「―――久しぶりだね」
扉を開けて小さく会釈する陸上部のエースは早めに部活動を切り上げて旧友と帰る理由をどうやら独占欲の強い恋人にちゃんと説明していないらしい。
二人の会話を聞いた訳でもないのに、それは"王子様"にも"お姫様"にも容易に想像できた。
――――なぜなら"不機嫌な王様"の吹かす紫煙で、今や生徒会室には真っ白な霧が発生していたからだ。
"お姫様"の前では困ったような視線を向ける男前の幼馴染みが"子供な王様"に完全に無視されている。
身勝手な男はこれだから始末が悪い。大切な智彦の幼馴染を振り回すだけ振り回して、いつも優しい彼を泣かすのだから。
お互い言葉が足りないだけであるという事実をしかし、智彦は口にはしないのだった。
それでは全然おもしろくない。
―――このうえ、無口な幼馴染の相談役という特権を逃がすなんて冗談じゃない。
意地の悪い腹黒天使はそう思っていたからである。
「―――それでは先輩方、お先に失礼します」
優秀なこの学園の書記は遠慮なく先輩方を生徒会室に置き去りにして帰っていく。
――――もちろん、この学園の"王様"が愛してやまない"素敵な恋人"を当然のように連れ去ってである。
そこには1人暮らしには不似合いな豪華な食卓が広がっていた。
――――テーブルに用意されている椅子は二つだけで、これから始まるパーティがごくささやかなものになることを物語っている。
それでも熱くなる目頭をごまかして智彦は不満げに口を尖らせた。そうでもしないと、胸に湧き起こる暖かい感情をごまかしきれそうにはなかったからだ。
「隆也、もちろん、ケーキは用意してあるんでしょ?」
小さく頷いた優しい幼馴染が冷蔵庫から小さなホールケーキを取り出した。大きな蝋燭が1本と小さな蝋燭が7本。ささやかに飾られた小さなケーキにはこれまた小さく『Happy Birthday』と下手くそな文字で描かれていた。
「電気消して。僕が火をつけるから」
ぼーっと浮かび上がるいくつかの光に智彦は目を細めた。この部屋の主のように暖かいその光をずっと見ていたいと思う。
―――毎年訪れるこの日を無口な幼馴染は律儀に祝ってくれる。両親に祝ってもらえない智彦の誕生日をいつだって彼だけが暖かく見守ってきてくれたのだ。
智彦は大きく息を吸って一気に蝋燭の火を吹き消した。
―――だからこそ、長年の片思いの末手に入れた恋人よりも我侭な親友の誕生日を優先してしまう優しい幼馴染に、"幸せになって欲しい"と、心からそう思うのだ。
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