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< The antimonopoly act >

ミーンミンミンミン。
ミーンミンミンミン。



―――静かな部屋に蝉の鳴き声が響く。

沈む夕日に届くその声は、情緒と取れば我慢も出来る。しかし、うるさいと一言で切り捨てればそれまでである。だが、地上に現れてから、わずか一週間の命を懸命に真っ当しようとしている彼らに文句も言えまい。



―――西田智彦は小さくため息を吐いた。

冬生まれには酷な季節の幕開けとなる7月、夏休みを目前とした生徒会室では、書記の智彦と副会長である“王子様”だけが仕事に励んでいた。


脱色された柔らかな髪がふんわりと風に揺れる。白い肌はなめらかで、色素の薄い書記様はさながら西洋人形のようである。



「――――副会長、今期の決算終わりました。認印お願いします」

しかし、そこから発せられる声は"学園の天使"と騒がれる甘さを微塵も含んではいない。冷めた眼差しが"食わせ者"の天使の正体を露にしてるのだ。




「ご苦労様。拝見させてもらおうかな」

ニヤリと笑った"王子様"は書類を受け取って早々に確認をし始める。パラパラと書類をめくる音だけが広い生徒会室に響いていた。



―――お互い人好きする仮面をぬぐって素面を晒すようになったのは例の一件以来である。幸運にも互いの腹の探り合いは、今のところ"腹黒天使"な智彦の勝ち逃げで幕を下ろしていた。




「―――完璧だよ、“智彦”」

「ありがとうございます」


一礼して副会長席に背を向けた仕事熱心な書記は思わず視線の先に舌打ちしてしまった。


―――この学園の"王様"は愛する恋人の迎えが遅いと吹かすだけ煙草を吹かして我慢できずに自ら迎えに行ってしまう"堪え性のない男"である。


その恋人の幼馴染である西田智彦はそんな"王様"をあまり快くは思っていない。



―――なぜなら、無口な幼馴染に色男の恋人が出来たからというもの、旧友である智彦の存在はないがしろにされつつあるからだ。


色男の恋人は大切な大切な"一番の友達"を独占する智彦の"大敵"なのである。




―――――独占禁止法で訴えてやる。

空席の会長席を見つめて、知らずと知らずのうちにぐっと拳を握っていた智彦は、彼の手の中でボキっと今月に入って6本目のボールペンがその短い生涯を終えたことに気付かなかった。







――――騎士様の"お迎え"がない今、誰が"お姫様"の帰りのお伴をするのかというと、それはもっぱら"王子様"の仮面を被った食わせ者の役目となっている。


もちろん、そこには"お姫様"の意思などない。騙した相手と一緒という妙な居心地の悪さがぞわぞわと智彦の神経を逆なでにする。

恨むべきは中途半端を嫌う自分の不器用さであることはわかってはいたが、仕事を押し付けて帰宅した役員たちに毒づかずにはいられない。




「――――――何?」


―――厚顔無恥とはよく言ったものである。


智彦の気持ちなどお見通しであるにもかかわらず、にっこりとため息の理由を聞いてくる腹黒王子様はとんでもない"根性曲がり"に違いない。



「いえ、つまらないことですから。あなたの性格の悪さの根源は何かと考えていたら、思わずため息が出ていたようで」

応戦してみたところで「そう?それは時間の無駄に等しいね」とさらりと返す男には毒入りの"皮肉"も効果をなさない、どころか、むしろ、応戦するだけ智彦の日々の疲れは倍増するだけなのだ。




―――――だから毎日の帰り道、智彦はいつか幼馴染の爪の垢を煎じてこの陰険極まりない男に飲ませてやるのだと心に決めるのである。




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あきゅろす。
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