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< The reserved seat >


数学の課題を終えて、西田智彦は十年来の幼馴染を窺った。生真面目な部屋の主は、すでに課題を終え明日の予習にまで手を伸ばしている。思いのほか長い睫毛を智彦はじっと見つめた。



―――最近、二人の時間は減る一方だ。




「――――た〜かやくん・・・・氷川先輩、優しい?」

ぴくっと肩を震わした辻隆也に、"天使"と呼ばれる幼馴染は似つかわしくはない意地の悪い笑みを浮かべている。案の定、固まってしまった親友は、いつだって純粋で嘘をつけない正直者なのだ。

その反応こそが十年以上も智彦を喜ばせていることをどうやらこの幼馴染はいまだに学習していないらしい。



「へぇ、それなりってとこ?僕には、どう見ても自己中男にしか見えないんだけど?」

ちらっと伺ってみると男前の幼馴染は、熟れたトマトと化している。もはや、右手に握られていたペンはころころと転がって机の上から逃げてしまっていた。




「――――智だって宮島先輩と・・・」

長い睫毛を震わせて、キツめの眼差しが智彦に向けられた。「とっくに別れたよ。この僕に恋人なんて世間が泣くからね」とさらっと笑って返すと、わかりづらい些細な表情の変化が幼馴染の不可解さを伝えてくるのだ。



「蓋を開けてみたらさ、お互いそれほど好きでもなかったってこと」

―――結果だけ報告してみる。しかし、何だか思案顔の親友にはもう一押し必要であるらしい。




「―――たいしたことじゃないよ」

最後の言葉になってようやく寡黙な幼馴染は首を傾げながらも小さく頷いてくれた。お互い相手の性格は知り過ぎるほど良く知っているから、本音の在り処はすぐに知れてしまうのだ。





タンポポと人々の笑顔が揺れるその季節。


―――いたずらな春風は"素敵な友達"を運んできてくれた。

思わず「友達になれ!」と命令し、"大好きの証明"を強行するほど可愛い少年は無口で、そのうえ、何を考えているのかさっぱりわからなかった。

それでも迷わず"一番の友達"にして連れ歩いた。

なぜなら"素敵な友達"の傍にはいつだって暖かい場所が用意されていたからである。



―――だから、智彦は物言わぬ少年が大好きだった。

あの日、智彦の"大好き"に頬を染めた可愛らしい少年は今はもうこの学園の"王様"を隣に据えてしまったけれど・・・。



―――だけど、"もう隣"を譲る気は一切ない。


少年の"一番の友達"の座は一生、自分の"指定席"だと西田智彦は決めていたからである。




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