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< イケナイコト >
「―――――っ!」
化粧室から出たフロアの真ん中でスレンダーな体は何かにぶつかって冷たい床へと倒れてしまった。
ただ"いつもの自分"を取りつくろうと必死で。
聞いてしまった会話を無に戻そうと必死で。
周囲を見ている余裕など今の園田雪夜には微塵もなかったから。
――――今日はとことんツいていない。
無様に転げた雪夜は尻もちをついたまま自虐的にほほ笑んだ。そして床の冷たさを両手に感じながら、ゆっくりと顔を上げる。
「―――大丈夫?ごめんね。立てるかい?」
そこには品の良いスーツを身をまとったサラリーマン風の男が立っていた。伸ばされた手を取らずに立ち上がろうとした雪夜は、一瞬の後、考え直してその手を借りた。
「―――大丈夫です。ありがとうございます」
力強い手で引っ張り上げられた雪夜に「本当?」っと首を傾げた優しそうな大人の男は、お詫びにどこかで一杯奢ると雪夜をさりげなく誘った。
―――雪夜は横っ面に向けられる視線を感じながら、自分の心がざわめいて騒ぎ出すのを聞いた。
「どう?」と笑う男に逆に心の中で問いかける。
――――あなたは僕を助けてくれますか?
それはダメだと心が騒ぐのに勝手に動く自分の体を雪夜は止めることができそうにない。横っ面に叩きつけられる視線をことさら強く、雪夜は意識していた。
「―――――――ええ、ぜひ」
そう微笑んだ時、自分は取り返しのつかないことをしてしまったっと漠然と感じていた。
――――教えてください。
あなたは本当に僕のことを好きですか?
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