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< ブラッディマリー >

ガヤガヤと賑やかに街を彩る雑多の夜。

――――太陽が沈んだ後の街はどこからか現れるアンダーグラウンドの住人たちで活気づく。



"マリー・アントワネットの血"が名前の由来とも言われるブラッディ・マリーに口づけながら、雪夜は4人席に座る男たちを眺めた。

隣に座って足を組み体制をだらりと崩した神城怜にちらりと視線をやると、男は登る紫煙を見つめるよに天井を見上げている。


―――コンっと雪夜の置いたカクテルグラスが音を鳴らした。

先ほどから雪夜と男の前には、全身にピアスが着いているのではないかと思うほどそこらじゅうにボディピアスをした蛇のような男とまるで白い猫が爪とぎをしているような可愛い顔に意地の悪そうな表情を浮かべた男が座って、二人を見ていた。




「――――へぇ〜、コイツがね」

まじまじと好色そうな視線で蛇男に下から上まで舐めるように見られた雪夜は、静かな侮蔑の視線で男を一瞥する。すると男は楽しそうにふーんと首を傾げて笑った。



―――軽薄さの中に漂う隠しきれないダークさが、どこか隣の男によく似ていると雪夜は思った。





「―――かわいいっしょ?」

煙草挟んだ手で指をさしながら、神城怜がニヤついた笑みで笑う。



「かわいい系じゃないでしょ〜」

「――なんての、綺麗系?」

好き勝手なことを言い始めた男達を雪夜は何とも言えない冷たい視線で眺める。




―――時々家に閉じこもってしまった雪夜を男はこうして"散歩"と称して無理矢理連れ出すとさまざまな店に連れていっては彼の知り合いたちに雪夜を合わせていく。本来、社交的ではない雪夜が紹介された人物たちと"仲良く"するはずもないのだが、わかっているだろうにそれでも男は"それ"を止めることはない。





――――馬鹿げている。



"神城怜"の考えはわかっている。世俗に慣れずに孤独な彼に暖かい"お友達"と"新世界"を与えてやろうというのだ。この世界に繋ぎ止めるための何かを・・・。




―――――本当に馬鹿げている。


隣の男を目の端にとらえながら、雪夜は毒々しい"血"を見つめた。真っ赤なグラスから滴がひとつ、ゆっくりとそのなめらかな曲線を伝って落ちていく。




――――わかってる。

本当はそんな男にノコノコついてきてしまう自分が一番の馬鹿だと。





かつて食に困る民衆を見て『パンがなければケーキを食べればいいじゃない?』と言ったというフランス王妃は、その民衆の怒りをかって亡き者となった。


―――自分は今そうなる境界線上にいるのではないかと思う。



この"ぬるま湯"に浸かっていたら溺れたことすら気付かずにいつか取り返しのつかない事態になるのではないか。

唇を噛んだ雪夜はカクテルグラスの血を見るに耐えられなくなり、ゆっくりと席を立った。

すっと向けられた視線の先で優しい男が「どした?」と笑うから、雪夜は胸が詰まって無言で首を振ってしまう。




――――初めて知る"恋"というものが園田雪夜の心を蝕んでいた。




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