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< 警笛 >





「―――――さてと。"夜のお散歩"に行こっか、雪夜?」

ハムサンドの最後の一欠けらまで、きちんと雪夜の口に収まるのを見届けた親鳥は、しばしゴロゴロした後、突然笑顔でそう言った。


―――――道理で派手な服装をしていた訳だ。

ヘラヘラ笑いながらもその実、頑として拒否は許さないという強い視線の男いに雪夜は小さくため息を吐いて服を着替えるために自室に向かって歩き出した。

そして、ここ最近マイペースな自己中男に流され始めている自分に不安を感じずにはいられない。





――――――雪夜。

普段からふざけた言い回しの多い神城怜がそう呼ぶ時、それは本気の呼びかけだ。



―――雪ちん、雪ちゃん、雪夜君、ユッキー。

どんどん増える、そのふざけた呼び方をするうちは、雪夜にも拒否権限が許されている。

だが、一旦"雪夜"と呼ばれたその時は実力行使を辞さないと言う意味なのだと頭の良い雪夜はすぐに気づいた。




――――飼いならされていく。


雪夜は足を止めて思わず唇を噛んだ。男のことを1つ知るたび、雪夜の胸の不安は大きくなっていく。




――――男なしでいられなくなる。


かつて神城怜の奴隷と化した者たちのように。



雪夜は小さくぎゅっと拳を握った。








――――取り返しのつかなくなる前に神城怜から離れなければならない。



静まり返っている家の階段の床をじっと見つめた。





―――湧き上がる感情に気づかないフリをして。




ミシっと床の軋む音がして、雪夜ははっと自分が階段を登る途中で考えに没頭していたことに気がついた。

階段の下でドアに寄りかかるようにして神城怜がこちらを見ている。

何を思っているのか、ただじっと向けられた視線に、居心地が悪くなる。何も言わない男から視線を逸らして、雪夜はぎこちなく階段を上った。






―――――怖い。


"神城怜"は時々、いつもの軽薄さを捨てて今のように全てを見透す視線でこちらを見る。いや、もしかすると神がかった天才にはすでに雪夜の全てが"見えている"のかもしれない。

パタンと自室の扉を閉めて寄りかかり、雪夜は小さく息を吐いた。



――――訪問者が来るたび湧き上がる暖かいの感情と比例して、警笛のような不安が日々大きさを増していた。




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あきゅろす。
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