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< 訪問者 >



「――――ciao、雪ちん」



―――そこにはコンビニ袋を片手に自称狡賢い魔法使いが笑顔で立っていた。

どこぞのファッション紙から抜け出てきたかのように小洒落た格好の男に雪夜はただ眉を寄せた。

この真夏に高校の同級生の家に来るためだけに、なぜそこまで服装を決めるのかと、ここ最近現れる神出鬼没な訪問者に若干呆れ気味な視線を向けていた。

今にも溜息を吐きそうな雪夜を押しのけて、勝手知ったる家に「お邪魔します〜」とふざけた台詞を置いて神城怜が入っていく。

雪夜はゆっくりと玄関のドアを閉めると頭痛のしてきそうなこめかみを抑えて、男を追った。



――――いつか、なぜうちに来るのかという質問に「何、自分で俺のところに来る気あるの?」っと逆に男に問い詰められた。

一月前のあの日から神城怜は夜のルールを平然と破って、昼間、雪夜の前に当然のように顔を出すようになっていたのだ。






ごそごそとテーブルに置いたコンビニ袋からサンドイッチを取り出した男はそれをポンッと雪夜に投げ飛ばす。

ソファに座ろうとしていた雪夜の腕の中にポサッっとちょうど良く冷えたハムサンドが舞い落ちた。

ニヤッと笑った色男は小さくウィンクした。



「―――ど〜うせ朝から夏バテって言い訳して、何も食べてないんでしょ?」


雪夜は苦笑してハムサンドを手にソファに腰を下ろした。

絶妙なタイミングで優しさを見せるこの自分勝手な魔法使いが本当は何のためにこの死んだ家に時折現れるのか知っていた。




7月末、夏休みに入った雪夜は家に籠りがちで欲に淡白な彼は食すら満足に取ることは少なかった。

夜の徘徊も何だか虚しくなってしまって、自然、雪夜は出家した僧侶のように世俗から離れたところで一人孤独に籠っていた。

頭の良い男はすぐにそれを察したのだろう。

当然のように雪夜の領分に侵入してはまるで雛に餌づけする親鳥のように雪夜の負担にならない程度の優しさを撒いていく。

冷酷で残忍なことが大好きなスケコマシは、案外、あの日"狡賢い魔法使い"になってくれたように優しい男なのだと雪夜は思った。



―――だから、ここ一月、訪問者が現れるたび"嬉しい"という訳のわからない気持ちが雪夜を悩まし続けていた。






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あきゅろす。
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