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< チャイム >
――――真っ盛りの蝉の声が煩わしい8月。
ギラギラと照る太陽は日に日にその勢い増して全国で最高気温を更新していた。
暑さの苦手な雪夜にとって、この時期は一年でもっとも苦手な季節だから、夏バテ気味な彼はクーラーの効いた部屋を一歩も出る気にはなれないのだ。
―――夏休みとなって休校中の今、一人ぼっちの家で園田雪夜はただ毎日を過ごしていた。
――――一月前のあの日から雪夜のヒーローと1年のバンビちゃんは清いお付き合いを始めた。
紆余曲折を経てくっついた二人は今は順調にバカップルへと変貌を遂げつつあった。
デートとサッカーに入れ込む親友とは夏休みに入ってからあまり会ってはいないが、時折電話をくれてはその火傷しそうな状況を、例によって若干空気の読めない親友はさらっと垂れ流していくのだ。
失恋ではなかったにしろ、もっとも近い人間が去ったようなそんな喪失感を胸に抱える雪夜にとって、それは苦笑を引き起こす類のものだ。
もっとも始めの頃よりも格段に"しかたがない"という気持ちで割り切れるようになって来ているから、雪夜も少しはこの件で大人への仲間入りを果たし始めているのかもしれない。
「――――"大人"か」
雪夜は小さくため息を吐いて大きなガラス戸から外を覗くのを止め、ほとんど使われることもないのに無駄にリビングを占領する、大きなソファに腰を落ち着けた。
―――――無論、この夏休み、子供に関心のない両親は大きなこの家に帰ってくることもない。
雪夜とてもうわかっている。
―――親とて人間。完璧な親などいるわけはない。
たまたま雪夜の両親は輪をかけて周りの人間達よりも成熟しきれていなかっただけなのだ。
だから、諦めの悪い子供な部分がちょっとした非現実な夢を見るだけで、もう彼の心の大半は諦めという名の大きな石で蓋を閉められてしまっていた。
「―――――ピーンポーン」
普段鳴ることのない突然のチャイムの音に雪夜は眉を顰めて、すっとポケットの中から携帯を取り出すと液晶画面を見つめた。そこには1時間ほど前から数件の不在着信が残されていた。
小さくため息を吐いた雪夜は、この一カ月でもっとも変わったのはこの男との関係かもしれないと思った。
「―――――ピーンポーン、ピーンポーン」
しつこく鳴らされるチャイムに雪夜はのっそりと動き出して大きな玄関へ向かう。もはやインターホンで誰が来たのか確認する必要はなかった。
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