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< 溺れる犬 3 >
――窓の夜景と開いたドアから射し込む灯り以外にほとんど光がないその部屋はぼんやりとした暗闇に包まれていた。
広い部屋に置かれたキングサイズの大きなベッドからは先ほどから、肉のぶつかる音に混じって肌触りの良い絹のシーツがか細い悲鳴を上げている。
―――ベッドの背後に大きく空いた都心の夜景が蠢く二人の男を照らしだしていた。
「あっ・・・っんぁ・・・」
座位で下からゆるく突き上がられた要はその綺麗な首を仰け反らせながら喘いだ。
暖かく大きな手が細い首を鷲掴みにすると、濡れた唇はあっさり貪り食われてしまう。
強引でいて優しく絡められるその舌は、要の吸う空気を否応なく奪っていった。
――――――最低だ。
"よし"と御許しをもらった賢い犬は、すぐには餌に飛びかからなかった。
じわじわと獲物の周りを回って追い詰めていくように、ゆっくりと飼い主を落としに掛っている。
――――――焦らされている。
わざと理性を手放なさいギリギリのラインで、快楽を与えてられている。
"これ"を与えているのは自分だと、要の体へ刷り込みしているのだ。
「――――動けよ、ご主人様」
獰猛で賢い犬は、楽しそうにニヤリと笑って腰をゆるく動かした。
「はあぁっ・・くっ・・・・んっ・・」
油断を狙って前立腺を掠めていったその突きに要は思わず男の体に爪を立てる。
――――ベッドでの主は自分だとそう言いたいのだ、コイツは。
「――――"ご褒美"、くれるんだろう?」
低く魅惑的な声で本当に愉快そうに囁く男に要は冗談じゃないと思った。
明日もみっちり入ったスケジュールが彼の頭の中に蘇る。体の疲労だけならばまだいいが、精神的に疲れるのは御免こうむりたい。
生憎と要は快楽主義者。
それもこの年でセックス初心者な訳でもない。
ゆっくりと男の腹に手を置いて、要は腰を上に持ち上げて自分の一番良いところに当たるように一気に落とす。
「ああぁっ・・んっ・・・・」
―――駆け抜ける快楽は最高だ。
瞳を閉じて快楽を追うと自然に微笑が落ちる。
しばらくして、ゆっくりと瞳を開けるとギラギラと目を輝かせた余裕のない獣がいた。
―――舌を舐めて挑発的に獣を誘う。
「―――私に喰われたいのだろう?」
「――――ちっ!」
舌打ちした獣はそのまま乱暴に要を後ろに押し倒すと、荒々しくその体に覆いかぶさった。
むしゃぶりつくように要の唇に強引に舌が入り込んでくる。
――男の余裕はもはや遠い彼方だった。
「んっ!あっ・・ああっ!・・・」
容赦なく打ち付けてくる楔に黒いシーツを掴みながら、もうすぐ理性を手放すことができると要は笑った。
―――まだベッドの主導権は渡せない。
荒々しい息と甘い嬌声だけが、太陽の光が差し込むその時まで、暗い部屋に響き続けていた。
End.
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