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< Your arms >




―――この学園の生徒会室は王国の執務室によく似ている。


美目麗しい書記のお姫様と爽やかでハンサムな副会長の王子様、そして大人の色気を醸し出す会長の王様がいるからだ。


いつだって3人はこの学園の憧れの的だから、彼らと知り合いな隆也は、ちょっと優越感を感じてしまう。


特に文句なくカッコイイ王様は、学園の誰もが尊敬している。

茶髪な髪は少し長めで、いつもシャツは開きっぱなし。首から下げられたチェーンの首飾りはいつもキラキラと光っていた。

ちょっと危ない男を地でいくそんな王様が、外見に見合わず運動も勉強も何でもそつなくこなしてしまうから、学園の皆はいつも尊敬のまなざしで彼を見ているのだ。

――――そんな皆の憧れが自分の恋人だなんて、一体誰が思うのだろう。


そう考えるとおかしくて、いつも隆也は小さく笑ってしまうのだ。




―――だが、生憎今日という日は幼馴染のお姫様も、いつもニッコリ微笑みかけてくれる王子様も、執務室には不在のようだ。





「ねぇ、遊ばない?」


女の腕が男の首に回されて、真っ赤に濡れた唇が男に寄せられる。




――――隆也は静かに踵を介した。







梅雨入りした空は暗い曇り空。

ぽつぽつ降る雨のせいで、今日の運動部は校庭を使えない。

大好きな走り高跳びも今日だけはお預けだった。

だから、いつもより早く一緒に帰れると王様の喜ぶ顔を期待して生徒会室を訪れたのだが、それが今となっては余計なことだったのだと隆也は気がついた。




―――大好きな王様が保健室のマドンナと口づけするのを見てしまった。



胸に突き刺さるようなその痛みに、隆也は唇を噛みしめた。


彼の手はぎゅっと固く握られていたが、好きだと言われていない身の上では到底、王様を問いただすことなどできないのである。


降り注ぐ雨は未だ止む気配を見せず、しとしと、しとしとと、まるで泣いているように廊下の窓を濡らしていた。





―――回される暖かい腕が自分だけのものでないことがとても悲しいと隆也は思った。






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あきゅろす。
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