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< On our way >


―――夕日がさよならを告げて、夜がそっとこんばんはをすると学校校舎の脇道には王様とお姫様のナイトが現れる。

しっかり手を繋ぐこの二人の関係を学園の人間はまだ誰も気付いてはいない。

知っているのは王様のお友達の王子様と騎士が守るお姫様だけなのである。

彼らの浅瀬はいつだって、夜の女神が支配するやさしい時間に限られていたから、この秘密は今のところ4人だけのものなのだ。 
 



「―――――ちっ。おい、もうちょっとこっちこい。危ねぇだろうが・・・」 


そうやってプリプリ文句を言うくせに、舌打ちばかりの王様は、繋いだその手を離そうとはしない。

毎日の帰り道、陸上部のエースが空を飛ぶのを止めるまで、紫煙をくもらせ続けたヘビースモーカーは、こうやって手を繋いで歩いてくれる。

彼に言わせると「おまえは見てるようで周りを見ていないから、ぼーっとして車に轢かれそう」なのだそうだ。



―――繋がれた手はとても暖かくて、今日という幸福を運んでくれる。

だから、隆也は今日も小さく笑って「はい」と頷いてしまうのだ。

横柄な王様の照れ隠しはいつだって乱暴なのだが、王様の恋人はそれをとても可愛いと思っている大変な変わり者なのであった。



「・・・・っ今日、何にしますか?」

毎日繰り返すこの質問が隆也にとってなけなしの勇気を振り絞っているものだと、果たして隣の男は気付いているのだろうか。  

隆也はじんわり手に汗を掻きながら、隣の背の高い男を見上げた。

真っ暗な優しい夜が、今日も都合良く、緊張で赤くなった顔を隠してくれればいいと思った。



「―――肉じゃが食いてぇな・・・・」
 
最近になって隆也のマンションに居座り始めた態度のデカイ居候は、どうやら今日も"お泊り"することに決めたらしい。

隆也はほっと胸を撫でおろして、"おいしい肉じゃが"を作ろうと心に決めた。
 



―――王様が毎日泊ってくれればいい。

そう愛しい恋人が思っていることを上機嫌な隣の男は気付かない。

知っていればその上機嫌にも拍車がかかって有頂天になることは間違いないのだが、この二人の間には決定的に言葉というものが足りなかった。

脇道の横にある『車両侵入禁止』の標識が、所在無さげにそんな二人を見送っていた。



―――月日は王様が校舎内を爆走したという噂がかけめぐった日から、半月経った日のことである。





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あきゅろす。
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