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< 首輪の在り処 >

要は優雅に立ち上がり、男を振り返る。黒々と闇色の髪はトグロを巻いて、覗く鋭利な瞳は痛いほどだ。要は整い過ぎたその顔を見つめ、バイクスーツを着崩した男に近寄った。


―――男は黙って、要の行動を見ている。


「――――――おまえは私の飼い犬だ。だが、私はおまえを鎖に繋ぐつもりはない」

ベルベットのように滑らかな声で、要は告げた。男の両脇に腕を突き、要は男の鼻先まで顔を近づけた。黒い闇色の瞳が、じっと彼の動きを観察している。



「どこへなりとも行くが良い。昼でも夜でもな・・・・あの野良犬達と遊んで来い。私はおまえを待つ気はないが、帰ってきた飼い犬を追い返すつもりもない」



ゆっくりと男の耳元に口寄せて、要は小さな声で囁いた。




「・・・・・・・だが、忘れるな。――――おまえは私のクィーンだ」



すっと男から離れた要は、そのままデスクの脇を通ろうとした。しかし、その手首は、男によって掴まれ、引きずり戻される。かっと見開いた目に、作戦を誤ったことを要は知った。


「――――はっ・・・・流石に、何匹も犬を飼ってる奴ともなると垂らし込むのも上手だな。調教師も裸足で逃げ出すぜ?」


どうやら相手に状況説明をしても無駄そうだ。犬にデリカシーを求めるものではない。デスクの上に押し倒された要は、心の中で1つため息を吐いた。

おそらく、友が同じ家にいようがいまいが、男には関係ないのだろう・・・と。不幸にも当事者である要も、あまり羞恥心やデリカシーがあるとは言えない性格である。



つまり、行き着く先は1つといったところだろうか。





――――――否、二つだ。



「―――お褒め頂き光栄、と言っておこうか。・・・そう、私はたくさんの犬を飼っている。―――だからこそ、知っている・・・」


要は自分の上に乗っている巨体を容赦なく蹴り倒した。大きな体が床に転がる。要は服装を正すと、デスクから降りて、睨みつけてくる犬を見下ろした。




「――――甘やかすばかりが脳ではない・・・・・っとな」


要は冷酷な表情で、己の犬を一瞥し、書斎の入り口へと向かった。もちろん、厚く燃え滾る炎が自分の背後で、膨れ上がっていることを承知の上で――――。



「・・・・勘違いするな。私は確かに『追い返すつもりはない』と言った。だが、『働かざるもの食うべからず』とも、言ったはずだ」


暗い室内に、入り口から延びる長い光の道。その光の世界を長い人影はすっと通り過ぎて消えていった。




―――構われ時を間違った哀れな犬を置きざりにして。



End.

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