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短編
切に願う
 彼女はきっと知らなかっただろうけど、僕は気付けば彼女を目で追っていた。
 ノルン・アルレーゼ。僕と同じ悪魔祓い見習いにして聖人の力を持つ少女。僕が望みながらも持ち得なかった力を持つ彼女は僕にとって眩しかった。
 彼女はいつも一人だった。風に靡く紫掛かった銀色の髪に瑠璃色の瞳、美しい少女だったが、彼女は誰とも関わろうとせず、まるでここに居ることが義務であるかのように日常を過ごしていた。

 彼女は例えるならば、空に輝く美しい銀月。穢れた存在である自分が彼女と同じ力を望むのは、浅はかなのだろうか。この身体は既に魔に侵されている。

 三年前、悪魔憑きとなった兄の手によって付けられた傷は僕が生きている限り僕を苛む。
 言うならば呪いの類いだ。魔に侵された傷は、治癒魔術でも治せない。傷を付けた契約者が死ぬか、その悪魔が消えない限り永遠に苦痛は続く。そうこの命、尽きるその時まで。

 実際死んだっていいのかもしれない。父も母も死に自分だけ生きていた所で虚しいだけ。ただ兄を悪魔から解放する。そのためだけに生きているのだから。
 本当になんて自分は浅ましくてどうしようもない人間なのか。彼女が羨ましかった。嫉妬に近い感情すら抱いていた。穢を知らぬ彼女が、己が欲した力を持つ彼女が。

 もしかすれば自分はもう、とっくに死んでいるのかもしれない。兄を助ける、その思いが無ければ自分は間違いなく死を選んでいた。それまでに十三歳の自分にとって家族は世界の“全て”だった。
 その全てを無くした僕はもう生きていない。優しく、美しいと信じていた世界はどこまでも残酷でどこまでも不条理だった。

 僕はもうあの頃の世界を信じていた純粋無垢な僕ではない。だから自分とどこまでも正反対な彼女に興味を持った。自分が望む全てを持つ少女と恐らくは彼女が求めている全て(聖人としての力も魔導師としての力も持たぬ自分)を持つ自分。
 いつか自分と彼女の道が交わる時が来るのだろうか。願わくば君と言う存在が僕と出会わぬことを……。






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